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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第111回- [東南アジア×宇宙利用]身近になる宇宙利用とビジネス、積極的な姿勢を見せるフィリピン

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

最近、日本では宇宙ビジネスへの関心が高まっていると感じる。宇宙をテーマとしたスタートアップが勃興しており、大企業もそうしたスタートアップとの連携を行う事例が出てきた。

一方で東南アジアと宇宙となると、あまりピンと来ないかもしれないが、例えばフィリピンは宇宙利用に積極的だ。2019年に宇宙活動法が制定されており、政府機関としても宇宙庁(PhilSA)を設置している。

こうしたフィリピンの動きに日本政府機関も積極的な協力を行っている。2016年に国際宇宙ステーション「きぼう」から、フィリピンの第1号超小型衛星「DIWATA-1」の放出を行った。これは、日本の宇宙航空開発機構(JAXA)として、50kg級の超小型衛星の放出を初めて成功させた事例ともなった。

DIWATA-1は、フィリピン政府が開発費用を全額負担し、日本が協力して作製した。その後も、2018年には「DIWATA-2」のH-IIAロケット打ち上げでも両国間で協力が行われた。比較的最近では、2021年にはJAXAとPhilSAの間で宇宙開発利用に係る協力覚書が取り交わされた。

また、軍事面では2022年6月に井筒俊司航空幕僚長がフィリピンに訪問した際に宇宙分野での協力強化で監視能力を高めていく可能性に言及した。このように、東南アジアのなかでもフィリピンは宇宙に対する関心が高く、日本との協力を進める動きが目立つ。 

他の国々でも、宇宙利用への関心は示されている。マレーシアには、2007年に宇宙で初めてラマダンを過ごしたイスラム教徒宇宙飛行士のシェイク・ムザファ・シュコアがいる。これはマレーシアがロシアから戦闘機スホイSu-30を18機購入した見返りとして、ロシアがマレーシア人宇宙飛行士の誕生をバックアップしたとされている(ただし、米国航空宇宙局は「spaceflight participant」と表現し、宇宙飛行士とは認めていない)。

また、シンガポールは2022年に高性能小型人工衛星の開発計画を発表しており、官産学での開発が行われ、通信や気象観測などでの利用が見込まれている。

かつてに比べると宇宙が身近になってきた今、今後の東南アジア諸国による宇宙利用の行方が注目される。

*2023年5月9日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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