【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 -第110回- 2024年の大統領選に向け、長い政治の季節に突入[インドネシア×政治]
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
前回のコラムではタイの総選挙に向けた動きについて書いたが、インドネシアも政治の季節を迎え、2024年2月14日に大統領選挙が予定されている。ジョコ・ウィドド現大統領は2014年の選挙で勝利し、2019年に再選した。憲法上の規定で大統領の任期は最大2期10年までと定められており、来年には新政権が発足することになる。
前任のユドヨノ大統領も10年間、大統領を勤めた。新大統領の政権の次が10年続くかどうかは予見しがたいが、その可能性が十分にあることを考えると、非常に重要な選挙となる。インドネシアは、1998年のスハルト政権崩壊以降は不安定なイメージがあったが、ユドヨノ、ジョコと10年間の政権が2サイクルまわったことで、安定感が感じられるようになった。
大統領選は経済的な影響も大きい。ユドヨノ政権が発足した2004年時点のひとり当たりGDPは1137米ドルに過ぎなかったが、2010年には消費財ブームが起きるとされる3000米ドルを突破した。2012年に過去最高となる3668米ドルを記録した後は、燃料価格の下落などを背景に3323米ドル(2015年)まで落ち込んだが回復し、2022年には4783米ドルと5000米ドル台が見える水準に到達した。
2024年に発足する新政権の下で、仮に、年率5%の成長を実現できれば、10年後には8000米ドル近くとなる。次期大統領は、インドネシアの飛躍の鍵を握る存在だと言えるだろう。
ただ、この大統領選を巡って、一時期、大きな波紋が広がった。今年3月2日、ジャカルタ地方裁判所が中央選挙管理委員会に対して、選挙を2年以上も遅らせるよう命令した。この判決は、小規模政党の正義と繁栄のための国民の党(PRIMA)が大統領選への出馬資格を不正に剥奪されたという訴えを受けて下されたものだった。
地裁は詳しい理由を説明しなかったため、強い批判が起こっていた。そして4月11日、高等裁判所が地裁判決を破棄して大統領選は予定通りに行われることとなった。
現時点、大統領選に名乗りを上げているのは3名である。ジョコ大統領の後継者となるガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事、アニスジャカルタ特別州前知事、そして、4度目の大統領ポストへのチャレンジとなるプラボウォ国防相である。これから、インドネシアの長い長い政治の季節から目が離せない。
インドネシア歴代大統領
出所:各種資料より筆者作成
*2023年4月25日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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