HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第108回-[ミャンマー×政治]アウンサンスーチー氏の政党NLDが解党へ。法律を意識するミャンマー国軍

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第108回-[ミャンマー×政治]アウンサンスーチー氏の政党NLDが解党へ。法律を意識するミャンマー国軍

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ミャンマーで3月28日、アウンサンスーチー率いる政党の国民民主連(NLD)に対して解党処分が下された。これはNLDだけをターゲットにした処分ではなく、その他の政党も含めて計40政党が対象となった。中国政府は2021年9月に開催したアジアの政党会議にNLDを招待している。また、報じられた中国政府関係筋は、NLDの解党は望んでいない、と発言している。

むろん、米国を始めとした旧西側民主主義国は、NLDの解党に対して反対しており、解党処分に対して強い懸念を表明している。そして、「意外」と感じるかもしれないが、一党独裁の中国までもが、NLDの解党はミャンマー情勢の不安定化をもたらすと考えていたのだ。そして、ミャンマー軍政当局も、2022年1月にはゾー・ミン・トゥン報道官がNLDは解党しないとの意向を示していた。

今回、注目すべきはNLD狙い撃ちではない点だ。ミャンマー国軍は、超法規的なクーデターという手段で政権を奪取したが、妙に法律やルールを守ろうとする姿勢を見せることが特徴でもある。「妙に」という理由は、そもそも論として、政権成立の経緯が超法規的である。

ただ、その経緯も、2020年に実施された総選挙に不正があったため、選挙結果も無効であり、やり直しをすべきだが、NLDが不法に政権を樹立させようとしているため、その不法な状況をただすために、やむを得ず、国を守るべき国軍が政権を奪取した、という理屈が展開されている。

その他の場面でも、法律に則ってこうする、という発言はよく見られる。今回も国軍は、政党登録法に基づいて各政党に書類の提出を求めていたが、その期限であった3月28日を過ぎても提出の無かった政党の登録を抹消、つまり解党としたという説明をしている。複数の政党があったが、そのなかに、NLDも含まれていた、NLDは法律による要請に応じなかったのだ、特段、NLDだけを狙い撃ちにしたのではなく、他にも同様の状態の政党を「平等」に扱ったのだ、という理屈が読み取れる。

ミャンマー軍政は、元々、今年8月に総選挙を実施するとしていたが、非常事態宣言を延長し軍政を継続している。総選挙はいつ実施になるか分からない状況であるし、実施したとしても、意味のあるものかは、旧西側諸国からは強く疑問視されている。ただ、国軍は、状況をみて選挙はいったん延期したが、やる気はある、それに向けて政党登録の状況を整理しているだけだ、ということだろう。

ミャンマー軍政を支持、あるいは中立的にみている外国政府は、「国内法に従ってやっている」という擁護姿勢につながる。旧西側諸国も批判はするが介入するほどの理由も無い。ミャンマー軍政の長期化は続きそうだ。

クーデターで国軍に拘束された状態が続くアウンサンスーチー氏
(Claude TRUONG-NGOC/Wikimedia Commons)

NLDの党旗(Washiucho/Wikimedia Commons)

*2023年4月11日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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