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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第106回- [マレーシア×文化]中所得国マレーシアが生み出した、世界的に著名な文化人たち

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

前回、マレーシア人女優のミシェル・ヨーが全米映画俳優組合賞(SAG賞)を獲得したことを話題にし、アカデミー主演女優賞の獲得が注目と書いていたところ、それは現実のものとなった。アジア系で初の受賞という快挙を成し遂げ、この原稿を執筆時点でも、メディアの報道は続き、興奮が冷めやらない状況だ。

「アジア系初」ということは快挙であることは確かであり、白人の牙城とも言われてきたハリウッドにも近年は、2019年には韓国映画「パラサイト」が非英語映画として初の作品賞となり、ポン・ジュノ監督も監督賞を受賞、2020年は中国人女性監督クロエ・ジャオがメガホンをとった「ノマドランド」が監督賞と作品賞を獲得した。

「ノマドランド」と競り合った「ミナリ」は米国映画ではあるが、出演した韓国人女優のユン・ヨジョンが助演女優賞を獲得している。このように、ルーツがアジアないしは非白人というだけでなく、現在の国籍としてもアジア出身者がハリウッドでメジャーな存在となっている。

筆者としては、ミシェル・ヨーについては、出身国がマレーシアであるという点に注目したいと思う。クロエ・ジャオの出身国中国は、所得の水準はまだ上位中所得国といっても、14億人の人口を抱え、米国との競争に突入している大国だ。

韓国は「先進国クラブ」と呼ばれるOECD加盟国であり、所得水準は先進国に到達しており、さらに言えば、映画や音楽、ドラマなどKカルチャーは世界的に競争力を持っている。一方で、マレーシアは中規模程度の国であり、高所得国入りは近いものの、まだ上位中所得国であり、非欧米圏の国として著名人がさほど多くないように感じられている国だ。そうした国から、映画界の頂点に輝く人物が生まれたことは興味深いと言えるだろう。

実はマレーシアは、他にも世界的な文化人を生んでいる。高級婦人靴デザイナー兼創業者のジミー・チュウ(同ブランドはロンドンで創設、現在は米国人デザイナーのマイケル・コースのカプリ・ホールディングスが保有)、ハリウッドの衣装デザイナーとして著名なジャン・トイ、エンポリオ・アルマーニやイブサン・ローランなどの世界ブランドでも活躍したスーパーモデルのリン・タン、映画「細い目」等で多くのファンを獲得した映画監督ヤスミン・アフマドなどが代表的だ。

日本で東レキャンペーンガールに初めて2年連続で選ばれ、タレントとして活躍しているアイリス・ウーもマレーシア出身である。今後も、マレーシア人の「意外な」世界的な活躍に期待したいところだ。


世界的に著名なマレーシア出身の文化人

出所:各種報道より筆者作成

*2023年3月21日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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