HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第104回-[国際経済×東南アジア]インフレとの闘い。東南アジア主要国の金利は落ち着くのか。

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第104回-[国際経済×東南アジア]インフレとの闘い。東南アジア主要国の金利は落ち着くのか。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ここ最近、国際経済で大きな懸念の一つはインフレーションだ。東南アジア諸国も例外ではない。世界銀行や国際通貨基金、各国の中央銀行も2023年はインフレ対策が重要な焦点となるという見解で、概ね一致している。

インフレ対策で一番分かりやすいのは利上げだ。米国の金利は世界経済や金融市場の行方において、極めて重要な要素である。米国の連邦準備理事会(FRB)は、ちょうど1年前から政策を転じて、断続的な利上げを継続している。2022年2月には、従前の0.25%から0.25%の引き上げを行い、現在は4.75%まで引き上げている。

この間、最もインフレ率が高かったのは2022年6月の前年同月比+9.1%であり、その後は徐々に低下し、直近のデータである2023年1月は同+6.4%となった。米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者は年明けに、2023年末時点の金利を5.00%から5.25%と予想し、そろそろ、金利の着地点が見えてきた。

さて、東南アジアはどうか。東南アジア各国は、米国との金利差とインフレ対策で利上げを余儀なくされている。シンガポールは通貨バスケット制度という仕組みであり、政策金利を採用していない。他の東南アジア主要国を見てみよう。

お隣のマレーシアは利上げ前では1.75%であり、現在は2.75%と1%引き上げてきた。インフレをみると2022年8月がピークで前年同期比+4.7であり、2022年12月が同+3.8%となっている。 そして、インドネシアは政策金利を3.75%から現在は5.75%へと2%の引き上げを行い、インフレのピーク時は2022年9月に同+6.0%、2023年1月は同+5.3%である。

また、日本の製造業にとってかかせないタイは、利上げ前の政策金利は0.5%で現在は1.5%であり、インフレは2022年8月に同+7.9%、最新の2023年1月は同+5.0%となっている。

今後の金利の着地点については、かなり簡略化した見方ではあるが、政策金利を名目金利と考え、インフレ率を差し引いた実質金利がゼロに近くなるか、という目安がある。

これに基づくと、インドネシアはほぼ妥当な金利水準まで到達し、そろそろ落ち着きそうだ。マレーシアは、2022年10−12月期は前年同期比+7.0%と高い成長率を記録しており、そろそろ景気の調整が必要なタイミングでかつ、金利とインフレ率の差を見ると、まだ多少の利上げ余地があろう。

対照的に、タイはやや難しい局面だ。低金利を続けてきたため、金利水準がまだかなり低い。一方でインフレ率は高く、経済成長率も2022年10−12月は同+1.4%にとどまっている。経済規模やファンダメンタルズを考えると、タイ経済が今年、インフレ対策を軟着陸し、景気の加速へと向かうことができるかは、東南アジア経済において重要性が高いだろう。


米国と東南アジア主要国の最新の金利とインフレ率

出所)各国中央銀行、統計局資料から筆者作成。インフレ率の小数点第2位は四捨五入。

*2023年2月22日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

バックナンバーはこちらから
【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ