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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第103回-[アジア×人口]人口規模の今と未来、そして移民政策から市場性を考える。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

どこそこの国は発展しそうだ、経済のポテンシャルを感じる−−−。そんな表現を聞いたことがあるだろう。東南アジアでは、ベトナムやインドネシアは、そのように表現されることが多い印象だ。

経済成長の潜在性やビジネスにおける市場性を決める要素は様々あるが、基本中の基本は人口だ。無論、人口だけで全てが決まるわけではない。シンガポールやイスラエルのように、小規模人口ながら、地経的な戦略を巧みに立てて、世界トップレベルの注目国家となった事例もある。それでもなお、一般論で言えば、人口は重要な要素だ。

さて、この人口については、現時点で人が多いとこや、若い人が多いことだけで見るべきではないだろう。なぜなら、日本が経験しているようにやがては高齢社会を迎えるからだ。マクロ経済的には、生産年齢に該当するのは、経済協力開発機構(OECD)が定義した15歳から64歳ということになっている。つまり、高齢社会はここに該当しない、65歳以上の「非生産年齢人口」の割合が多いことを意味する。

この視点でみれば、いかに生産年齢人口を増やすかが大切になる。逆に、かつての途上国問題は多産多死であり、14歳以下の非生産年齢人口が多く、出産数を適正に抑制し、乳幼児死亡率を下げることが課題だった。

経済発展をして教育費や住居費が高騰すれば、先進国が経験してきたような少子化は避けられない。しかも、近年は、婚姻や子どもをもうけるとが当然だ、と言う旧来型の価値観は瓦解しかけている。

そこで重要になるのが移民の受け入れである。シンガポールは少子化が相当すすんでいるが、移民を受け入れることで生産年齢人口の減少を緩やかにし、ある程度の割合が永住者や国民化して留まることになる。

一方で、ベトナムは経済発展したとしても、共産党一党支配という性質上、移民を積極的に受け入れる可能性は低いだろう。マレーシアやフィリピンは比較的容易に移住できる。当面の10年、20年は現状の人口構成が経済発展に効くであろうが、それ以上長くなると、構造的に生産力が落ちる可能性がある。

生産年齢人口の減少は、イノベーションをすすめて、効率を飛躍的にあげればカバーできるかもしれないが、簡単な話ではない。もちろん、人口だけが全てではない。大きな人口規模を生かせないようなガバナンスの国もあまり成長は望めないだろう。

それでもなお、依然として、数が多いこと、なかでも生産年齢人口は重要な要素だ。その人口について、現在だけを切り取って見るだけでなく、未来にはどのような構成になるのか、という視点も必要だろう。

 


プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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