HOMEコラム【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第102回-[マレーシア×政治]迷走して凋落する、かつての最大野党。「粛清」された次世代政治家たち。

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第102回-[マレーシア×政治]迷走して凋落する、かつての最大野党。「粛清」された次世代政治家たち。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

マレーシアは総選挙後の政局がまだまだ続いている。アンワール新政権が誕生したというだけでなく、2018年までは最大与党だった統一マレー国民組織(UMNO)が迷走し、党の存続も危ぶまれる局面を迎えている。

きっかけは、総選挙後のザヒド総裁が副首相に起用されたことだ。以前のコラムでも触れたが、ザヒド総裁は汚職疑惑で高等裁判所では無罪判決だったものの、検察側は控訴して最高裁にもつれ込んでいる状況だ。

選挙では26議席の獲得に止まり、前回の2018年総選挙から28議席も減らした状況だ。連立与党の一角として新政権に参画したものの、総選挙の惨敗の責任があるはずのザヒド総裁が副首相に収まったという顛末は、UMNO内部でも不満が高まった。

そうしたなか、コロナ対策の陣頭指揮に当たり、国民の評価が高まったカイリー・ジャマルディン前保健相がUMNOから除籍処分を受けた。さらには、ヒシャムディン・フセイン前国防相も6年間の党員資格停止処分となった。

UMNOの次世代リーダーとして位置付けられていた、この二人の政治家がUMNOの主流から完全に外された。これは衝撃的な動きである。先般の総選挙で僅差で落選したとはいえ、カイリーの復帰に期待する声は強くあり、人気は維持していた。

党の公式発表では、UMNOなどで構成する連合政党の国民戦線(Barisan Nasional)以外の候補者を選挙で応援したことや、敵対する政党に協力したため、UMNO党規約違反と発表されたが、党指導部を批判したことが背景にあるとみられている。

カイリーはこうした処分にも屈さず、政治活動を続けると話している。本来であれば、カイリーらによる党改革がUMNOの党勢の回復のカギを握っていたが、今回の動きではザヒド指導部に対立する政治家は、カイリーやヒシャムディンといった重要人物クラスでも、躊躇なく除外するという意向が示されたと言えよう。

先般の選挙で有権者から「ノー」を突き付けられたUMNOは、迷走状態にあると言ってよい。ザヒド総裁が政治権力で反対勢力を抑え込み、副首相にいる間は、まだよいかもしれないが、こうした政治を見せつけられた有権者は、ますますUMNOから離れていくのではないだろうか。今後、カイリーらが他政党に参画するのか、あるいは新党を立ち上げて、次なる政界再編の台風の目となるのか。

マレーシア総選挙のその後の政局は、まだ目が離せない状況が続く。

▲アンワール内閣で青年・スポーツ大臣に就任したハンナ・ヨーは、次世代リーダーとして注目されている。カイリーとのミーティングについてツイートしていた。

▲UMNOから除名処分を受けた後、カイリーは決して屈しないとツイート

*2023年1月31日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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