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【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第101回-[マレーシア×トルコ]「文明の交差点」のイスタンブールから世界をみる

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

前回は年末年始を過ごしたエジプトの視点から書きました。今回は、帰途に乗り継ぎの時間をトランジットで1日を過ごしたトルコの視点から、東南アジアとの関係について書いてみたい。

私は今回で5回目のトルコ滞在となった。仕事中心で首都アンカラと最大都市イスタンブールのみと限られた経験にはなるが、参加したイベントの質や訪問先の方々や現地でサポートをしてくださった方々のおかげで、濃い訪問だったと感じている。

トルコは「文明の交差点」と呼ばれ、イスタンブールにある有名なアヤソフィアは象徴的な存在である。もともとはビザンツ帝国の時代にギリシャ正教の大聖堂として537年に建てられましたが(原型の)、1453年からはオスマン帝国の支配下となり、イスラム教徒のモスクとして使用されてきた。元教会だった痕跡ははっきりすぎるほど残っている。

東南アジアとトルコの関係は様々あるが、目立つのはマレーシアとの関係だろう。国営投資会社のカザナ・ナショナルはイスタンブールにオフィスを2013年に開設している。単純にトルコ関連の業務だけをしているのではなく、地域統括拠点として中東、アフリカ、中央アジア、欧州をカバーしている。

カザナ海外オフィスは、上海、ムンバイ、サンフランシスコ、そしてイスタンブールの4拠点だ。世界的、地域的に地位の高い金融やイノベーション都市とともにイスタンブールが並んでいる点が興味深い。歴史的な「文明の交差点」だけではなく、現在もEMEA(Eurpope, the Middile East and Africa)地域経済やビジネスのハブとしての重要性を反映しているといえる。

また、もう一つ興味深いのがトルコとマレーシアの国としてのあり方である。かなり異なる点も多いものの、共通しているのは、イスラム教が政治社会経済に渡り重要な存在であることだ。特に、近年は政治と政党が主導するイスラム化は、両国を分析する上で重要な要因となっている。

また、近隣国にもイスラム教の潮流に重要な影響を与えている。国力をみると、人口規模はトルコが約8500万人、マレーシアが3300万人と開きがあるが、一人あたりGDPはトルコが9,654米ドル、マレーシアが11,408米ドルであり、中所得国としてはかなり高く、高所得国入りが近い。

読者の中には、こうした情報についてすでにご存知の方もいるだろう。そうした知識を体感として転化できると、さらに様々なアイディアが湧くものだ。知識と体験が接合したイスタンブールの滞在であった。  

イスタンブールのアヤソフィア。キリスト教の大聖堂の特徴とイスラム教のモスクの特徴を併せ持つ建築。礼拝のイスラム教徒や欧米を中心とした観光客でにぎわっていた。(筆者撮影)

*2023年1月24日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

クロールアソシエイツ・シンガポール シニアバイスプレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアや新興国を軸としたマクロ政治経済、財閥ビジネスのグローバル化、医療・ヘルスケア・ビューティー産業、スタートアップエコシステム、ソーシャルメディア事情、危機管理など。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年12月より現職。共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所共同研究員、同志社大学委嘱研究員を兼務。栃木県足利市出身。

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