【シンガポールの政治基礎データ】政治体制や議会制度などを徹底解説
シンガポールは古くからアジアの貿易の中心地として栄えてきましたが、1965年の独立時は資源もなく、土地も小さい発展途上国でした。そこから約60年、飛躍的な経済成長を遂げたのにはシンガポール政府の政策の努力があってこそでしょう。
今回は近代化がめざましい先進国であるシンガポール政府の基礎知識について詳しくご紹介します。
シンガポールの政治概要
政治体制
シンガポールは1965年にマレーシアから独立し主権国家となり、イギリスの植民地時代から採用していた英国法に基づく法制度をシンガポール独自のものに転換しながら発展してきました。
政府機関はシンガポールの憲法によって規定されており、行政、立法、司法の3つの国家機関の基本的な枠組みを定めています。
●行政府: 首相を筆頭に内閣で構成されています。政府の全般的な方針に責任をもち、議会に対する説明責任を負っています。シンガポールの首相は行政府の実質的な長です。また、首相は、人口政策など、特定のテーマについて検討する内閣委員会の設置を随時決定することが可能です。 ●立法府: シンガポール大統領と議会で構成され、法律の制定に責任を持っています。シンガポール大統領は国民の選挙によって選出されます。政府の予算と重要な人事に拒否権を行使する権限などが限定的に与えられています。限定的な権限以外は内閣の助言に従って行動しなければなりません。 ●司法: 独立して司法を運営し、憲法によって保護されている機関です。 |
首相
2004〜(第3代) | Mr Lee Hsien Loong |
1990 〜2004(第2代) | Mr GOH Chok Tong |
1959〜1990(初代) | Mr LEE Kuan Yew |
●初代首相 Mr LEE Kuan Yew(リー・クアンユー氏)
マレーシア連邦から独立したシンガポールを困難な時期から世界有数の先進国に導き、「建国の父」の異名を持つ首相です。任期は1959年から1990年で辞任後も上級大臣、メンター大臣として内閣に残り後継者の育成に努めました。2015年、惜しくも逝去しましたがその偉業はいまだに人々の間で語り継がれています。
●第2代首相 Mr GOH Chok Tong(ゴー・チョクトン氏)
1990年にリー・クアンユー氏の後継者として首相に就任し、シンガポールの更なる発展を促進しました。国会議員に初当選したのは1976年、2020年に退任するまでの44年間の間に貿易産業大臣、保健大臣、国防大臣を歴任しました。
その後副首相、さらに首相に就任し14年間首相を勤めた後、2004年に指導者刷新のため退任しました。退任後はシンガポール金融管理局(MAS)会長を勤め、2017年にはシンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の運営委員会会長に任命されました。
●第3代首相 Mr Lee Hsien Loong(リー・シェンロン氏)
2004年からシンガポールの首相を務めており、初代首相リー・クアンユー氏の長男です。首相就任前は、副首相、財務大臣、貿易産業大臣、第二国防大臣、またシンガポール金融管理局(MA)の会長を歴任しました。
首相としての功績はシンガポール国民の学習とスキルアップを支援するSkillsFuture、スマートシティ構想実現のためのSmart Nation政策を打ち出しました。また、政府系ファンドGIC、シンガポールの研究開発の戦略的方向性を示すResearch Innovation and Enterprise Council (RIEC)の議長も務めています。
2022年4月には後継者を現副首相兼財務大臣であるMr Lawrence Wong氏に指名しました。
歴代大統領
シンガポールの大統領は1991年以前は議会によって任命されていました。1991年以降は国民の直接投票により選出されるようになりました。1993年就任のオン・テンチョン(Ong Teng Cheong)氏が直接選挙投票の初代大統領です。
また、大統領職における多民族代表性を確保するため、過去5期に渡り大統領職を就任していないコミュニティがあれば、そのコミュニティから選出されることになります。
歴代大統領
2017〜(第8代) | Mdm Halimah Yacob |
2011〜2017(第7代) | Dr Tony Tan Keng Yam |
1999〜2011(第6代) | Mr S. R. Nathan |
1993〜1999(第5代) | Mr Ong Teng Cheong |
1985〜1993(第4代) | Dr Wee Kim Wee |
1981〜1985(第3代) | Mr Devan Nair |
1971〜1981(第2代) | Dr Benjamin Sheares |
1965〜1970(初代) | Encik Yusof Ishak |
参考:The President of the Republic of Singapore
シンガポールの内閣閣僚組織図
シンガポールでは、大統領が選挙で選ばれた国会議員の中から、首相、閣僚を任命します。首相は国会議員の過半数の信任を得た国会議員から任命し、閣僚は首相の助言に基づき、大統領が国会議員の中から任命します。
現在(2023年2月8日現在)のリー・シェンロン首相は初代首相で建国の父とも言われた、リー・クアンユー氏の長男です。1府15省から成り立っています。
また、シンガポール政府にはこのほかに法廷機関(The Statuary Board)と呼ばれる組織があります。これらはそれぞれの個別の法律によって設立された政府系機関で、現在50以上の機関があります。
主要閣僚
Prime Minister | LEE Hsien Loong |
Deputy Prime Minister and Minister for Finance | Mr Lawrence WONG |
Deputy Prime Minister and Coordinating Minister for Economic Policies | Mr HENG Swee Keat |
Senior Minister and Coordinating Minister for National Security | Mr TEO Chee Hean |
Senior Minister and Coordinating Minister for Social Policies | Mr Tharman SHANMUGARATNAM |
Minister for Defence | Dr NG Eng Hen |
Minister for Foreign Affairs | Dr Vivian BALAKRISHNAN |
Minister for Home Affairs and Minister for Law | Mr K Shanmugam |
Minister for Trade and Industry | Mr GAN Kim Yong |
Minister for Transport | Mr S Iswaran |
Minister for Sustainability and the Environment | Ms Grace FU Hai Yien |
Minister for Education | Mr CHAN Chun Sing |
Minister for Social and Family Development and Second Minister for Health | Mr MASAGOS Zulkifli |
Minister for Health | Mr ONG Ye Kung |
Minister for National Development | Mr Desmond LEE |
Minister for Communications and Information and Second Minister for Home Affairs | Mrs Josephine TEO |
Minister, Prime Minister’s Office, Second Minister for Finance and Second Minister for National Development | Ms Indranee THURAI RAJAH |
Minister, Prime Minister’s Office, Second Minister for Education and Second Minister for Foreign Affairs | Dr MOHAMAD MALIKI Bin Osman |
Minister for Culture, Community and Youth and Second Minister for Law | Mr Edwin TONG |
Minister for Manpower and Second Minister for Trade and Industry | Dr TAN See Leng |
参考:PMO(Prime Minister’s Office Singapore)
議会制度
●議会制度:シンガポールは一院制であるためシンガポール国会には下院のみあります。
●政党:
●議会概要:直近2020年7月の選挙結果による第14代内閣
行政機構(地域行政制度)
日本では各都道府県庁や市町村役所が行っているような、シンガポールの地域住民の生活に密着した地域の課題を取り扱う組織は、法定機関が役割を担っています。
例1) ●人民協会(People’s Association:PA) 文化社会青年省(Ministry of Culture, Community and Youth:MCCY)の法定機関です。 「1つの国民、1つのシンガポール」を実現するためや、人種間の調和と社会的結束を促すために設立された機関です。あらゆる階層のシンガポール人に対応した幅広いプログラムを提供し、スポーツイベントや文化イベントの開催、政策説明会の実施などにより人と人、人と政府を結びつけています。 |
例2) ●タウン カウンシル(Town Council) 国家開発省(Ministry of National Development:MND)の法定機関である住宅開発庁(Housing and Development Board)関係機関であるタウンカウンシル(Town Council)は、国会議員と住民が協力して団地の運営を行うことを目的として設立されました。 国会議員は選挙区内の公営住宅を管理する権限、責任が与えられることからそこに住む住民も意思決定に参加することができます。こうすることにより、それぞれの町が独自の個性を持つように促しています。 |
シンガポールの主要政策
外交
シンガポールの外交は、中立的な立場を保つことが特徴です。ASEAN諸国に対しては、全面的にコミットする姿勢でどの国とも良好な外交関係を保っています。アメリカのアジア地域の安全保障面についての関与や、中国の成長についてもシンガポールに経済利益をもたらすことから歓迎しています。
また、台湾とも昔から友好関係にあり、そのような外国的に中立である立場を活かし、多国間の会談開催地を提供するなど外交の場を提供しています。
経済
主な主要産業は製造業(エレクトロニクス、化学関連、バイオメディカル、輸送機械、精密器械)、商業、ビジネスサービス、運輸・通信業、金融サービス業です。アメリカ、ヨーロッパや日本などの多国籍企業の資本や技術を取り込み、経済を発展させています。
コロナ禍においても素早いインフラの立て直しを行うなどの対策で「世界競争力ランキング2022」(国際経営開発研究所(IMD)調べ)では、シンガポールが世界第3位に輝く快挙。シンガポールの経済パフォーマンスに関しては、国内経済(1位)、国際貿易(1位)の評価がトップとなっています。
環境
気候変動による影響を受けやすい島国であるシンガポールは2021年「シンガポール グリーンプラン2030」を発表し、2030年までに国をあげて取り組む環境政策を明らかにしました。
教育省、国家開発省、持続可能性・環境省、貿易産業省、運輸省の5つの省が主導し、それぞれが5つの主要プランを打ち出しています。
国内の緑化計画やゴミの削減プラン、二酸化炭素(CO2)の実質ゼロ排出の達成、再生可能エネルギーと低炭素技術に関する研究開発などが挙げられています。
教育
世界トップクラスの人材が集まるシンガポールですが、自国の人材育成にも余念がありません。経済発展に貢献する人材の育成はもちろん、自国民が高収入の雇用を得られるようさまざまな政策が行われています。
学校に対しては水準の高い教育システムを取り入れ、また、Skills Futureなどの政策によりすべてのシンガポール人が技術向上と生涯学習に積極的に活動することを促す制度を打ち出しています。
IT
シンガポールは2014年、国家・経済・社会のデジタル化を提起し、「スマートネイション構想」を発表して以来、国のデジタルトランスフォーメーションに注力しています。
「都市生活」、「交通」、「健康」、「電子政府」、「起業・ビジネス支援」の主軸から交通渋滞、人口過密、高齢化社会、エネルギー消費の増大などのシンガポールが抱える社会課題をICTが解決することを目指しています。また、各産業分野においてもデジタル化をすすめ、効率化を図っています。
飛躍的な発展を実現したシンガポールの政治
突然のマレーシアからの独立や多民族国家、と数ある問題を一つずつ解決し、独立以来シンガポールならではの政治と政策で飛躍的な進歩を遂げてきたシンガポール。他国と友好的な関係を築き、他国の良いところを積極的に取り入れ、また同時に自国民の生活水準を上げることにも成功しています。その政策はアジア諸国だけではなく、世界からも注目されています。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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