【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第204回[韓国×エンタメビジネス]HYBE会長への逮捕状請求。ファンの「推しは推し」なのか、それとも創業以来の難局か。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
2026年4月21日、韓国警察当局は、エンターテインメント大手HYBEの創業者であるパン・シヒョク会長に対し、資本市場法違反(詐欺的不正取引)の容疑で逮捕状を請求した。HYBE所属のBTSが兵役から復帰してフルメンバー、いわゆる「完全体」で活動を再開したばかりだ。
容疑の核心は2020年の株式上場(IPO)前後の不透明な取引にある。パン会長は、2019年に既存の投資家に対し、上場計画がないと虚偽の説明を行ったとされる。その上で、自身が実質的に関与するプライベート エクイティ ファンド(PEF)へ、当該投資家が保有する株式を安値で売却するよう誘導した疑いが持たれている。
この取引において、パン会長側とPEFの間で、上場後の株式売却益の30%をパン会長個人が受け取るという「裏契約」が存在した可能性が指摘されている。警察は、この一連の操作によりパン会長が約1,900億ウォンの不当利得を得たと算出。これは、上場企業のトップが情報の非対称性を利用し、市場の透明性を著しく損なった事例として扱われている。
本件の捜査は、2024年末から段階的に進められてきた。2025年にはHYBE本社への家宅捜索が実施され、同年8月にはパン議長に対して出国禁止措置が講じられた。直近の半年間では、計5回にわたり被疑者として当局に出頭し、取り調べを受けている。
今回の逮捕状請求に対し、パン会長側の弁護団は、捜査への誠実な協力を強調しつつ、容疑を全面的に否認している。今後は裁判所による拘束前令状実質審査が行われ、身柄拘束の妥当性が判断される見通しである。
HYBEは、パン会長のリーダーシップのもと、BTS、LE SSERAFIM、ILLIT、NewJeansといったアーティストを擁するマルチレーベル体制を構築してきた。さらに、近年はHYBE Americaなど海外事業にも力を入れ、米国ではグループのKATSEYEの人気も上昇している。
加えて、WEVERSEというプラットフォームを展開して収益も積み重ねている。「BTS一本足打法」からの脱却への道筋をつけたとも言えるだろう。
今回の逮捕状請求を受けて市場は「オーナー リスク」を意識して、株価が下落した。ただ、株価についてはBTS復帰を見込んだ上昇基調が続いており、利益確定売りが続いていたという見方もある。そのため、今回の件だけが影響なのかは見極める必要がある。
ブランド毀損という見方がある一方で、一般のファンの多くは、経営トップには批判的でもアーティストからも離れる訳ではなく、「推しは推し」であろう。また、パン議長の存在は大きいものの、経営陣や各部門のリーダーも実力者を擁している。
2025年には韓国公正取引委員会が作成している財閥企業のカテゴリーにも認定され(連載第194回参照)、個人依存という面だけでは捉えきれない規模となっている。
今回の逮捕劇という、HYBE創業以来の難局がどうなっていくのか。後発でありながらも、既存の3大芸能事務所を抜き去り、巨人となったこの企業の将来が試されている。

(写真: Metropolitan City of Busan/Wikimedia Commons)
*2026年4月22日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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