【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第29回-Workforce Fairness Act の成立と対応(後編)
シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎

みなさん、こんにちは。One Asia Lawyers Group(Focus Law Asia LLC)です。前号に引き続き、今号でもWorkforce Fairness Act の成立と対応についてご説明をさせていただきます。
4.企業が注意すべきことは?
シンガポールで事業を展開する日本企業にとって、WFAは単なる法令遵守にとどまらず、日々の人事管理や職場運営に直接関わる重要な規制となります。当案は2027年末までに施行される見込みですので、新案に向けてしっかりと社内体制を見直すことが重要です。
a.求人、採用段階で要件、募集事項の十分な見直し
求人広告、職務記述書において、前述したWFAの定める禁止事項に触れないために再度の見直しが必要です。(年齢や性別といった保護するべき特性を理由に応募を制限することは原則禁止です。)。
求人
特に日本でよくみられる「女性優遇」「若い方希望」など保護対象属性を理由とした表現も該当します。
やむを得ずにそのような表現が必要な場合、TAFEPのガイドラインに基づき、その必要性と理由を広告内で明確かつ客観的に記載することが求められております。
例)女性居住スペースへの配置が必須な場合
※本ポジションは、女性専用居住エリアでの業務(入居者支援・夜間巡回など)が含まれるため、建物管理上の都合から女性従業員のみを対象としています。
また、TAFEP のガイドラインにて、求人広告における選考基準は、資格、スキル、経験など実務の遂行に直接関係する項目に限定するよう推奨されています。
スキル・実務経験:「X年以上の会計経験」など。
言語能力の指定:特定の国籍を強調させる代わりに、言語能力や資格のスコアを条件にする。
◎使用してよい表現
| ◎幼稚園の中国語教師。O レベル中国語で優秀な成績が必要です。 ◎マレー語スポーツ専門誌の翻訳者。マレー語の高い運用能力が必須。 ◎中国/日本/インドからの観光客を担当するツアーガイド。中国語/日本語/インド系言語の知識が必要。 |
✖使用してはいけない表現
| ◆英語と中国語/マレー語/タミル語のバイリンガル(※理由が記載されていない場合) |
国籍の指定
国籍を選考基準として使用することは避けるべきです。特に 非シンガポール人を優遇するような表現は厳禁 となっています。
◎使用してよい表現
| ◎シンガポール国籍の方のみ (※政府規定や公的職務における例外を除き、理由が必要な場合あり) |
✖使用してはいけない表現
| ◆新移民優遇 ◆特定の国籍を職種名に含める例(イタリア人シェフ希望) ◆ネイティブの中国語/マレー語/タミル語話者のみ ◆EP/S Pass/WP/DP/LTVP 保有者優遇・のみ |
採用
求人広告の作成に続き、採用の次のステップである面接段階でも、公平性とメリットベースの判断が求められます。
面接時に行うべきこと
| ◆選考基準を明確にし、全候補者に一貫して適用する。 ◆選考基準に直接関連した面接質問を作成する。(TAFEP の非差別的質問例も参照可能) ◆面接内容、評価過程、内定の記録を適切に残し、少なくとも1年間保管する。 ◆差別的と受け取られる可能性のある質問は避ける。やむを得ず必要な場合は、その理由を明確に説明する。 |
面接では、業務に直接関連し、応募者の能力や適性を判断できる質問を行うように指定されています。
たとえば、「これまで担当したプロジェクトで直面した課題とその対応方法を教えてください」など、職務経験やスキル、実務への適応性を確認する質問は問題ありません。また、「海外出張や不規則な勤務に対応できるか」「xxツールの使用経験はあるか」といった、業務要件に基づく質問も適切です。
一方で「近いうちに子どもを持つ予定はあるか」「ご家族の介護状況はどうですか」など、候補者の個人的背景に関わる質問は差別的であり、避けなければなりません。さらに、健康状態に関する質問も、業務上の安全性に直接関係しない限り不適切とされています。
b.管理職、採用担当の教育
会社内で採用担当や人事部がWFAの内容(保護対象、禁止行為、手続きの義務など)を正確に理解することは、公平な職場運営の前提となります。
そのうえで、TAFEPにて推進されている採用・昇進・配置転換・パフォーマンス評価などの場面では、個人の能力、実績、業務要件との適合性といった客観的な基準に基づいて判断する「Merit-Based Decisions(メリット重視の意思決定)」 を徹底することが求められます。
c.苦情処理の整備・文書保存、対応履歴の管理
義務化された苦情処理の整備はもちろん、申し立ての記録、対応、調査といった一連のながれを明確に管理・保存できる環境を整えておくことが重要です。保存された記録は、調停は法的審理において重要な証拠となり、今後の問題への再発防止や改善策を検討するためにも役立ちます。
まとめ
WFAの施行により、これまでガイドラインとして推奨にとどまっていた公平雇用の原則が、企業にとって遵守すべき明確な法的義務へと変わります。シンガポールで事業を行う企業は、採用・昇進・配置・退職など、すべての雇用判断において公正性を担保し、適切な苦情処理体制を整備することが不可欠となります。
2027年末の施行を見据え、今から社内制度の見直しや担当者の教育を進めることで、法令遵守はもちろん、企業として持続的で信頼される職場環境の構築につなげることができるでしょう。
【執筆者】
One Asia Lawyers Group/Focus Law Asia LLC
シンガポール法(FPC)・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
<栗田 哲郎お問い合わせ先>
E-mail:tetsuo.kurita@focuslawasia.com
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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。
| One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点) ・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー) ・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン) ・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド) ・日本国内(東京、大阪、福岡) ・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン)) ・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)) ・メンバー数(2023年8月時点) 全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名) |
栗田哲郎 Tetsuo Kurita
| One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia 代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法) tetsuo.kurita@oneasia.legal |
2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。
その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。
2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。
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