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第197回[ミャンマー×政治]「民政移管」選挙、国軍政党の圧倒的勝利。ビジネスリスクは一層の不透明化へ。

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第197回[ミャンマー×政治]「民政移管」選挙、国軍政党の圧倒的勝利。ビジネスリスクは一層の不透明化へ。

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

ミャンマー軍事政権は、2025年12月28日から2026年1月25日にかけて、2021年2月のクーデター後初となる総選挙を3回に分けて実施した。結果は、軍の影響力を制度的に固定化した上で形式だけ「民政移管」を演出するという政治的な儀式となった。

ミャンマーの議会は下院440議席、上院が224議席の計664議席で構成される。うち166議席は国軍指名枠で改選されない。今回は治安上の理由で選挙を実施しない選挙区が78あった。420議席が投票の対象となり、投票率は第1回が52%、第2回が55%、第3回が56%となり、2020年の70%台からは大幅に下がった。

結果はUSDPの圧勝。下院で264議席中232議席、上院で157議席中108議席を獲得した。その他の政党は親軍政党か、軍とは対立関係にあっても政治的な配慮をしつつも大幅に議席は取れないことを見込んで参加が承認された政党である。

2020年の前回選挙で圧勝したアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)は、新たな政党登録法に基づく再登録を拒否したとして解党処分を受けており、今回の選挙から排除されている。国民民主連盟や国民統一政府(NUG)は「不正な茶番」としてボイコットを呼びかけていた。

国際社会の反応は、ミャンマーをめぐる地政学的な分断を浮き彫りにした。国連や欧米諸国は、主要な野党が排除され、言論が弾圧された中での選挙を「偽りのプロセス」と厳しく批判して結果を認めない姿勢を示した。ASEANも2026年1月末の外相会議において、公式に選挙結果を承認しない方針を表明した。

対照的に、軍政にとって最大の経済的・外交的後盾である中国やロシア、そしてインドなどは選挙監視員を派遣しており、特に中国は「着実かつ秩序ある実施」を祝し、新政権との戦略的協力関係を深める意向を示した。

日本は茂木外務大臣の談話を通じて、政治犯の解放や関係当事者間の真摯な対話といった進展がないまま選挙が強行されたことに「遺憾」を表明した。日本は今後も、ミャンマーの民主的な政治体制の回復を求めつつ、国民に直接裨益する形での人道支援を継続する慎重な立場を取っている。

ビジネス視点では、今回の選挙によってミャンマー政治は国軍体制の長期固定化が続くことを前提と考えるべきだ。地方での戦闘や暴力は続いているものの、ヤンゴンは日常生活が続き、外国人目線では課題を感じにくい。ただし、統治体制の視点からは様々なプロセスが一層不透明になるリスクが高まる。

また、欧米社会が厳しいスタンスを継続していることから、制裁の強化や制裁対象との取引をトリガーとした二次制裁のリスクは留意すべきだ。新規の投資は限られるだろうが、ミャンマーでビジネスを継続している日系企業は、パートナーや取引先について国軍との関係や制裁可能性、不正リスクを中心に定期的なモニタリングを実施することが推奨されよう。

ミャンマー議会の構成

総選挙の概要

*2026年2月4日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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