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第196回[日本×インド]茂木外相のインド訪問、先端技術と安保協力の推進で日印協力が新たな局面に

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第196回[日本×インド]茂木外相のインド訪問、先端技術と安保協力の推進で日印協力が新たな局面に

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

2026年1月15日から17日、茂木敏充外相がインドを訪問した。2025年の石破・モディ会談の「日印共同ビジョン」を具体化する意味合いがあり、日印関係を経済安全保障と先端技術を軸とした「実利的な連携」へとステップアップさせるものだった。

第18回日印外相間戦略対話において、両国は「デリスキング(脱リスク化)」で一致した。サプライチェーンの強靭化に向け、半導体、重要鉱物、ICT、エネルギー、医薬品の5分野が優先課題として特定された(図表参照)。また、「日印AI協力イニシアティブ(JAI)」に基づき、2030年までに500名の高度AI人材をインドから日本へ招へいする方針も示された。

また、日印関係は巨大インフラと防衛装備の進展にも注目だ。第1に、高速鉄道プロジェクトはムンバイ・アーメダバード間において、最新鋭の「E10系新幹線」の導入調整が進んでいる。これは輸送手段の整備のみならず、沿線開発を通じたインド経済の発展にもつながる。

第2に、防衛装備移転は艦艇搭載用の統合複合無線アンテナ「UNICORN」の対印輸出に向けた調整が加速した。共同訓練主体の関係から装備品協力という新たな進展と言える。

第3に連結性の向上である。中国との地政学的関係で敏感なインド北東部において、日本は唯一の外国パートナーとして道路や橋梁の建設を継続している。これはモディ政権の「アクト イースト」政策にも合致し、エスカレーション抑止にも寄与する要素がある。

日本の主要メディアは、インドを「中国に対する強力なバランサー」として位置づけている。読売新聞は、経済的威圧を強める中国を念頭に、日米豪印(クアッド)の枠組みにおける日印協力の重要性を強調した。特に、サプライチェーンの多角化に向けた「日印民間経済安全保障対話」の設置を、経済的自立性を確保するための決定的な一歩として報じている。

一方で、日本経済新聞は、インドの法規制の不透明さやインフラ未整備が日本企業の投資障壁となっていることや、インドがRCEPから離脱しており貿易の自由化で日印間に隔たりが残る点にも触れた。

主要なインドメディアは、日本を「最も信頼できる開発パートナー」と評価した。茂木外相がTimes of Indiaに寄稿した「日印:相互補完的関係における新しい黄金の章」は、インドで広く引用され、日本の「Viksit Bharat(ヒンディー語で「先進国インド」)」への貢献が歓迎された。

Indian Expressはジャイシャンカル外相の「世界経済をデリスキングする義務がある」という発言を取りあげ、日印関係は二国間を超えたグローバルな安定を支える「責任ある大国間関係」と強調した。また、茂木外相が設立した「クリケット議員連盟」などのソフトパワーによる交流も、インドの国民感情に訴えるポジティブな要素として報じられた。

2027年には日印国交樹立75周年に向け、今後は、政府間の動きがいかに具体化されていくのか、実際の成果が問われていく局面へと向かうだろう。

サプライチェーン強靱化に向けた5つの優先分野と具体的アクション

出所)日印政府発表資料、報道から筆者作成

 

*2026年1月27日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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