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第190回[ASEAN×APEC]高市総理、ASEAN・APEC首脳会議で外交デビュー

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第190回[ASEAN×APEC]高市総理、ASEAN・APEC首脳会議で外交デビュー

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

高市早苗総理は就任後初の本格的な外交舞台として、10月下旬から11月初旬にかけてマレーシアの首都クアラルンプールで開催されたASEAN関連首脳会議と、韓国の古都・慶州(キョンジュ)でのAPEC首脳会議に相次いで出席した。

首相就任後、間もなく、アジア大洋州の首脳や閣僚と対面で一挙に会う機会に恵まれたのは幸運と言えるだろう。高市政権発足後、国内では有象無象の意見が交わされている。妥当性や中身はさておき、日本外交が国民にここまで注目されることは珍しい。

国際会議はマルチの場とサイドラインで行われる二国間会談という2つの視点から見ていく必要がある。今回はマルチについて解説したい。

まずASEANでは、高市総理は「日本とASEANを共に強く、豊かに」というテーマを掲げ、人的交流、デジタル・グリーン分野、平和と安定という三つの柱を提示した。具体的には、AIや半導体など新技術を通じた経済連携の深化、サプライチェーン強靱化などであり、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想にも言及が見られた。

環境・防災分野での支援強化も打ち出し、日本が「共に成長するパートナー」であることを鮮明にした。ASEANが掲げる「インド太平洋に関するアウトルック(AOIP)」と、日本の「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の整合性を訴え、地域秩序の共通理念を確認した。

そして、APEC首脳会議では、経済・貿易・デジタルが焦点となった。高市総理は「ルールに基づく自由で公正な経済秩序」の維持を訴え、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)の高い水準の維持・強化やRCEP(地域的な包括的経済連携協定)の透明性ある運用が強調された。

さらに、AI、エネルギー、インフラなど成長分野への官民連携投資を推進する姿勢を示した。日本が2031年にAPEC議長国を控えるなか、地域経済の将来像を見据えた布石だ。

ASEANとAPECの両会議を通じて、「信頼に根ざした連携」と「技術・人材・環境の三位一体成長」というメッセージで一貫性が保たれた。それは、「信頼に根ざした連携」と「技術・人材・環境の三位一体成長」という方向性だ。アジアの多様性を尊重しつつ共に繁栄するという姿勢が際立った。

国内論調は、中国に対するけん制という視点から見過ぎる傾向も一部にあったが、ASEANとAPECの本来の価値観に立ち戻ったメッセージに徹したことは、今後、地域国際秩序における日本に対するイメージ形成という点でもプラスが大きいだろう。むろん、リアルポリティックスの世界では、これからは成果が冷静に問われていくとも確かだ。

次回は、サイドラインで行われた二国間会談に注目して解説したい。

 

*2025年11月5日脱稿

 


プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

Kroll日本支社
シニア・バイス・プレジデント

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。アジア新興国の政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップなどが主な関心事。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりスタートアップのジョーシス株式会社でジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。2025年11月よりKrollに復帰し、アジア新興国を中心とした企業インテリジェンス活動に従事。

共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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