【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第168回[東南アジア×金利]各国中銀、堅調な国内経済でもグローバルな不確実要因で様子見の姿勢

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
最近の東南アジア各国の政策金利についてまとめておこう。3、4年前ほどから家賃の高騰のトレンドがあり、2年ほどは生活必需品の価格も明らかに上昇してきている。グローバル情勢をみれば、米国の金融政策やトランプ関税といった気になる動きがある。
2024年半ばから2025年はじめにかけて、東南アジア主要国の中央銀行は、経済成長と物価安定の微妙なバランスを取る金融政策運営を心がけているようにみえる。
まず、タイ中銀は、2024年10月に政策金利を2.25%に引き下げた後、2025年2月まで据え置きを続けた。この決定の背景には、経済回復の支援と物価安定の維持がある。タイ経済は2024年第4四半期に前年同期比で3.2%と堅調な成長を示し、インフレ率も目標範囲内に収まっている。
次に、インドネシア中銀は、2025年1月に政策金利を5.75%に引き下げ、2月も同水準を維持した。この決定は、経済成長の促進、インフレ抑制、通貨安定のバランスを取る努力を反映している。タイとインドネシアは、通貨下落に警戒を示しつつも、まずまずの経済成長とインフレの一服感があるなか、グローバル情勢の不確実性を見極めてから次の手を検討したいといったところだろう。
そして、フィリピン中銀は、2024年8月から12月にかけて3回連続で利下げに踏み切り、政策金利を5.75%とした。利下げ基調が続くかと思われたが、2025年2月13日には市場予想を覆して金利据え置きとした。この一連の決定は、家計消費と経済成長の刺激を目的としていたが、2月の据え置きは、米国のトランプ政権発足による貿易政策や不確実性の影響を評価するため、一旦様子見としたとみられる。
一方で特徴的なのはマレーシア中銀であり、2024年を通じて、そして2025年初頭も政策金利を3.00%に据え置いている。この背景には、2024年の堅調な経済成長(5.1%予想)と抑制されたインフレ率(2025年1月は前年同月比1.7%)がある。マレーシア中銀は伝統的に金利操作はあまり頻繁には行わず、その傾向が続いている。また、それだけ他国に比べてマクロ経済が安定している傾向にあるとも言えるだろう。
総じて、2025年の東南アジア経済は国内の経済は、物価に対する警戒を残しつつも、まずまずの景気が想定されているが、外部からの不確実性如何によっては、下振れするリスクがある。当面、米国の貿易政策と中国の景気が注目点であり、東南アジア各国の中銀の金融政策にも影響を与えるだろう。
*2025年2月25日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
ジョーシス株式会社
ジョーシスサイバー地経学研究所(JCGR) 所長兼主任研究員
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。東南アジアなど新興国政治経済、地政学、サイバーセキュリティ、アジア財閥、イスラム経済、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理などが主な関心事。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりジョーシス株式会社にてジョーシスサイバー地経学研究所を立ち上げ、地経学とサイバー空間をテーマに情報発信。
共著書に「マレーシアを知るための58章」(2023年、明石書店)「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア−政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア−イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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