【~連載~One Asia Lawyers Groupのシンガポール法律コラム】
-第19回- シンガポールの相続法(2)

みなさん、こんにちはOne Asia Lawyers Group (Focus Law Asia LLC)です。前回はシンガポールの相続法の基本制度、相続法上の居住地などについて解説しました。
今回も、シンガポールの相続法に関して、特に遺言の作成方法および留意点についてご説明をいたします。
シンガポール法における有効な遺言書とは?
シンガポールで作成された遺言書は、「書面」(口頭では無効)で作成され、「被相続人が2名の証人の立会いのもとで遺言書の末尾に署名する場合のみ有効」となります。
シンガポール法において、被相続人がシンガポール国外で遺言書を作成した場合、その遺言書は作成された場所の法律、又は被相続人の相続法上の居住地(Domicile)の法律に従って有効に作成されていれば、シンガポール裁判所は有効と見做すことが一般的です。つまり、日本で作成された遺言においても、日本が相続法上の居住地と見做された場合においては、シンガポールの裁判所は有効と見做すことが一般的です。
複数の国に資産を所有する場合の注意点とは?
日本とシンガポールなど複数の国に資産を所有している場合、相続人である親族に迷惑をかけないためにはどのような準備が必要でしょうか。
被相続人の国籍地での遺言の作成、または大半の資産所在地の遺言書があれば十分だと思われるかもしれません。しかし、資産が複数国に所在する場合、それぞれの国の相続法の制度が異なり、遺産分配方法に違いがあり、遺産の分配が困難となる場合があります。
特に、シンガポールのようにプロベートなどがある国においては、現地シンガポール裁判所による遺産執行者の選任などが求められる場合、シンガポールの資産についてはシンガポール法上有効な遺言書でなければ資産の解放がなかなか認められません。例えば、日本法のみで有効な遺言であり、シンガポール法上は無効と見做される遺言を作成してしまった場合は、シンガポールに所在する遺言については、その解放が認められない可能性があります。
このため、日本法とシンガポールの両国に資産が存する場合は、①日本に所在する資産については日本法で遺言を作成し、シンガポールに所在する資産についてはシンガポール法で遺言を作成するなど、複数の遺言を作成する方法と、②遺言書はひとつとするものの、シンガポール法と日本法いずれでも有効と見做される可能性の高い遺言を作成する方法の2つがあります。
いずれが良いかは、ケースバイケースで判断していくことになりますが、一般的には、①複数の遺言を作成する場合、コストが増加してしまうこと、および複数の遺言が矛盾してしまう可能性があることなどのデメリットもあることから、②日本法に基づいて有効な遺言を作成するのみではなく、シンガポール法においても有効な遺言、すなわち日本・シンガポール法の両法律において有効と見做されるひとつ遺言を作成しておく方法が合理的であると考えられます。
いずれにせよ、複数か国に資産を有するケースで遺言を作成する場合は、日本法だけではなく、シンガポール法にも精通した専門家にレビューを行ってもらうことが重要となります。
遺言の定期的な更新の必要性
遺言書には資産の一覧を記載することが一般的ですが、資産の状況は刻々と変化する可能性があるため、遺言書は定期的に更新し、所有している資産についてできるだけ明記するよう定期的に更新することが推奨されています。また、資産の分配に関する被相続人の意思が変わった場合は、遺言の内容を更新する必要があることは言うまでもありません。
なお、遺言を更新した際には、古い遺言書が該当の法律に基づいて有効に撤回されていることを確認することも重要です。
相続税の検討
遺言を作成するにあたっては、相続税の検討も非常に重要です。シンガポールでは相続財産に対する相続税は課されません。しかし、相続人又は被相続人の相続法の居住地によっては、相続税の対象となる可能性があります。具体的には、日本が相続法上の居住地となる場合は、日本の相続税の対象となる可能性があります。
相続税の状況によっては、遺言書の作成に加えて、信託(トラスト)等の仕組みを検討する場合もあります。このため、遺言書を作成する際は、日本の相続税に関する助言を専門家から受け、不要な税負担を回避することも重要です。
まとめ
以上、シンガポール相続法の制度及び複数の国に所在する資産を管理するための注意点等について概説いたしました。遺言書がない場合であっても被相続人の死亡後の資産分配に関する明確な規定を設けていますが、シンガポールにおいては、ご自身の希望に沿って資産分配を実現するためには、遺言書の作成は重要です。特に、複数の国に資産を所有している場合、それらを意図した相続人に確実に承継させるためには、それぞれの国にある資産の状況を把握し、どのような法規制が適用されるのかを理解して、日本・シンガポールそれぞれの国で有効な遺言を作成することが必須となります。
【執筆者】
One Asia Lawyers Group/Focus Law Asia LLC
シンガポール法・日本法・アメリカNY州法弁護士 栗田 哲郎
シンガポール弁護士 ゴー・アデリン
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One Asia Lawyers Group

One Asia Lawyers Groupは、アジア全域に展開する日本のクライアントにシームレスで包括的なリーガルアドバイスを提供するために設立された、独立した法律事務所のネットワークです。One Asia Lawyers Groupは、日本・ASEAN・南アジア・オセアニア各国にメンバーファームを有し、各国の法律のスペシャリストで構成され、これら各地域に根差したプラクティカルで、シームレスなリーガルサービスを提供しております。
One Asia Lawyersグループ拠点・メンバーファーム 24拠点(2023年8月時点) ・ASEAN(シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン、インドネシア、カンボジア、ラオス、ミャンマー) ・南アジア(インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン) ・オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド) ・日本国内(東京、大阪、福岡、京都) ・中東(アラブ首長国連邦(UAE/ドバイ・アブダビ・アジュマン)) ・その他(ロンドン、深圳(駐在員事務所)) ・メンバー数(2023年8月時点) 全拠点:約400名(内日本法弁護士約40名) |
栗田哲郎 Tetsuo Kurita
One Asia Lawyers Group / 弁護士法人 One Asia 代表弁護士(シンガポール法(FPE)・日本法・アメリカNY法) tetsuo.kurita@oneasia.legal |
2004年より日本の大手法律事務所(森・濱田松本法律事務所)に勤務後、スイス・アメリカへの留学を経て、シンガポールの大手法律事務所(Rajah & Tann)にパートナー弁護士として勤務。その後、国際法律事務所(ベーカーマッケンジー法律事務所)においてアジアフォーカスチームのヘッドを務め、日本企業のアジア進出・M&A・紛争解決に従事する。
その後、2016年7月One Asia Lawyers Groupを創設(シンガポールのメンバーファームはFocus Law Asia LLC)し、シンガポールを中心にアジア全般のクロスボーダー法務(クロスボーダーM&A、国際商事仲裁等の紛争解決、国際労働法等)のアドバイスを提供している。
2009年よりシンガポールに拠点を移し、2014年日本法弁護士としては初めてシンガポール司法試験(Foreign Practitioner Certificate)に合格、日本法・アメリカNY州法に加えて、シンガポール法のアドバイスも提供している。
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