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調達総額は前年比で2割減なるも、決済・暗号通貨・バンキングテックは好調な伸び

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】 第166回[フィンテック×東南アジア]
調達総額は前年比で2割減なるも、決済・暗号通貨・バンキングテックは好調な伸び

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

2024年、東南アジアのフィンテック業界への投資動向は興味深い結果となった。Tracxn社が1月13日に発表したレポートによると東南アジア地域における2024年のフィンテック企業への投資総額は約US$16億にとどまり、2023年のUS$21億から23%減少した。ピークだった2022年のUS$63億から大幅減である。

ただ、これは東南アジアのフィンテックセクターの未来が暗いのではなく、過剰な投資が一巡して選別された結果だ。過去には将来性に疑問があるスタートアップにも多額の資金が投入されていた。

国別では、シンガポールは東南アジアのフィンテックハブとしてUS$9.55億を集め、ジャカルタとバンコクが続いた。インドネシアのような新興国は、銀行口座を持てないアンバンクド(unbanked)な人々が多くいるが、フィンテックによって銀行口座以外の金融手段を持つようになった。

決済分野が最多のUS$3.66億を調達して、前年比53%増と最も高い伸びを示した。次いで、暗号通貨関連企業もUS$3.25億を獲得して20%の成長。そしてバンキングテック企業への投資もUS$2.65億と63%増加した。

バンキングテックとは、銀行業務や金融サービスにおいて最新のテクノロジーを活用して効率化や顧客体験の向上を実現するテクノロジー群だ。この分野の急増は、大手金融機関のデジタルトランスフォーメーションが加速していること示している。

投資ステージ別ではどうか。シード段階はUS$1.9億(前年比6.4%減)、アーリーステージがUS$7.5億(16%減)、レイトステージがUS$6.94億(31%減)となった。最大の資金調達案件はタイのAscend MoneyがシリーズDでUS$1.95億となった。ANEXT BankのUS$1.48億(シリーズD)、BolttechのUS$1億(シリーズC)が続いた。

また、シンガポールのPolyhedra NetworkがシリーズBでUS$2,000万を資金調達して、2024年唯一のユニコーン企業(推定時価総額US$10億以上の未公開企業)となった。

こうした状況を踏まえると2024年のフィンテックをめぐる投資動向は、過去に比べてふるいにかけられ、今後の成長性が高く、かつ手堅く見込めるところに資金が集まったと言えるだろう。また、Ascend Moneyのような財閥関連のスタートアップやバンキングテクノロジーが中心だった。

大手経営コンサルのEYは、クロスボーダーでの決済サービスの連携・再編や組み込み金融(非金融業者が提供するサービスに金融サービスを組み込むこと)の拡大といった動きのほか、法人が利用するコアバンキングの近代化などが2024年以降のトレンドとの見解を示している見解を示している(Brian Thung, “How 2024 will spark financial services innovation in Southeast Asia”, 4 January, 2024)。

東南アジアのフィンテックはブームを経て、地域全体での広がりや法人へ展開といった次なるステージに進んでいる。

出所:2025年1月13日付けTechNode Global、同The Economic Timesより筆者作成

*2025年1月20日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。

2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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