【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第164回[中国企業×東南アジア]中国発の急成長KKグループ、東南アジア展開を加速
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
中国発の小売企業KKグループが、東南アジア市場で急速に成長している。KKグループは2024年、わずか1年という急展開で東南アジア4か国に進出した。2024年初頭のマレーシアを皮切りに、10月にタイ、11月にベトナム、12月にフィリピンへと進出し、年末時点で約30店舗まで伸ばした。
KKグループは、2015年に呉悦寧が中国で設立した小売企業である。呉は1984年生まれ。若い起業家で、2021年にはフォーチュンの「40 Under 40」にも選出されて注目を集めた。呉は広東省の東莞理工学院を卒業後、IT業界で働いた後、2015年に主に輸入品を販売するKKショップ「KK Guan」をオープン。早い段階から中国のベンチャーキャピタルからの資金調達に成功し、一挙に多店舗展開や多角化に着手した。
特に、2019年にはKKVというライフスタイルブランドと、The Coloristという手頃な価格の化粧品に焦点を当てたメイクアップブランドを開始して人気を集めた。2020年には独自のコンセプトのキャラクターブランド「X11」もスタートした。
急拡大の背景には、新しい商品を次々と生み出すことや、O2O戦略で実店舗とデジタルプラットフォームを融合するといった点が指摘されている。そして、2024年からは東南アジアを皮切りにした国際展開を始めている。
破竹の勢いにはみえるが、課題もある。2020年、2021年、2023年に香港市場でIPO(株式公開)を申請したが成功せず、2024年に再度の申請をしている。IPOが失敗している理由は、2019年から2021年に累計で82億元以上の損失を計上したなど財務状況などが指摘されている。2023年には2億1000万中国元の純利益を生んで改善がみられたため、4度目の申請にいたった。しかし、申請から1年近くが経過してしまっている。
また、店舗の急増は、品質管理や人材育成の面で課題を生む可能性があるほか、MINISOなど類似競合の存在があること、在庫リスクなども懸念が拭えいない。東南アジアの店舗も今のところ、物珍しさも手伝い人気があるようだ。今後、KKグループの勢いが東南アジアでも継続するか、注目しておきたい。
*2025年1月8日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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