【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
第163回[アジア×経済]トランプ関税を控え中国経済は減速するものの、東南アジア経済は好調。ベトナムは高成長に期待
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
12月11日、アジア開発銀行(ADB)が「アジア経済見通し(2024年9月版)」の12月改訂版を発表した。
アジア新興国全体では2025年の経済成長率は前年比4.8%として、前回の2024年9月版から0.1%ポイント下方修正した。2023年は5.1%(実績)、2024年は4.9%(予想、9月値から0.1%ポイント下方修正)であったため、アジア新興国全体の経済成長は緩やかに減速していることになる。下方修正の背景としてADBは、2025年1月から発足する米国のトランプ新政権が関税を引き上げるとみられることから、物価が上昇して経済成長に影響が生じると見ている。
ただ、地域ごとに見ていくと減速基調がはっきりしているのは中国であり、その他の地域は堅調であることが分かる。中国について2023年は5.2%、2024年は4.8%、そして2025年は4.5%と、徐々に減速傾向が明らかとなっている。
14億人規模の経済であるから、4%台の成長でもかなりの規模だが、年々、成長の幅が小さくなっているとなれば企業業績や給与の上昇が小さいため、消費は弱くなる。日常生活のミクロレベルでは、「景気が悪い」「節約しよう」というマインドになりがちだ。
他の地域を見ると、東南アジアは全般的に好調だ。2023年は4.1%、2024年は4.7%、そして2025年は4.7%となっている。2025年について国ごとに見ると、最も成長が期待されているのがベトナムであり、6.6%が予想されている。9月値に比べて0.4%ポイントの上方修正である。主要なアジア新興国のなかでは唯一、上方修正が施された国でもある。
次いで、フィリピンは6.2%、インドネシアは5.0%、マレーシアは4.6%、タイは2.7%、シンガポールは2.6%となっている。所得水準が高いシンガポールとマレーシアも高成長が期待されている点は注目だ。
インドについては、2024年の6.5%から2025年は7.0%と上向く見込みだ。9月値に比べると2024年は0.5%ポイント、2025年は0.2%ポイント下方修正されているが、高水準にあり、アジア経済全体の成長にとっても大きな存在であることが認識される。
2025年は米国でトランプ新政権が発足することで、経済にも様々な影響が及びそうである。ポジティブな影響とネガティブな影響の両面が予想されるが、マクロ的な方向感を見極めつつ、戦略的なビジネス判断をしていきたい。
新興アジア主要国・地域の経済成長見通し(前年比、%)
*2024年12月11日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。
2023年にEYストラテジー・アンド・コンサルティングのインテリジェンスユニット・シニアマネージャーとしてビジネスインテリジェンスの強化を手がけた後、2024年4月よりITデバイス&SaaSの統合管理クラウドを提供する現所属にて情報発信を担当。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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