【2024年】スマートシティとは?シンガポールはアジア都市1位~実現のメリットや課題・開発イメージ・最新の取り組みを一挙ご紹介~
シンガポールはスマートシティの先進国として注目されています。シンガポールでは、政府機関、各業界団体、研究機関が共同でスマートシティ開発に向けて、AI(Artificial Intelligence、人工知能)、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、ハイレベルなセンサー技術、プラットフォーム開発などの試験的導入を積極的に進めており、人々の生活の向上や諸課題の解決に寄与しています。この記事では、スマートシティの概要とシンガポールの取り組みについて詳しく解説します。
スマートシティとは
スマートシティとは、先端技術を駆使して、全体最適化が図られる持続可能な都市モデルを指します。具体的に言うと、AI(Artificial Intelligence、人工知能)、IoT(nternet of Things、モノのインターネット)、ビッグデータ、ICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)、クラウドコンピューティングなどの技術を最大限に活用し、都市の抱える諸課題を解決しながら、生活者の利便性や快適さの向上、都市インフラの高度化、各種運営業務を効率化させるのがスマートシティ開発における大きな課題です。
例えば、交通渋滞を減らすためにリアルタイムの交通データを分析し、公共交通機関の効率を高めたり、エネルギー消費を最適化することで環境負荷を減らしたりすることが可能になります。
スマートシティ開発に向けて、スマートシティ加盟各国では、インフラやエネルギーの管理、交通システム、公共サービス、環境保護など、さまざまな分野での革新と新たな価値の創出を計画しており、未来の都市づくりに向けた取り組みを行っています。
ここ数年では、スマートシティ開発および推進のため、日本と東南アジア各国が参加する「ASEANスマートシティ・ネットワーク」が開催されています。この会合を提案した国はシンガポールですが、シンガポール政府は世界各国の企業と連携してスマートテクノロジーの早期導入に成功しており、現在では世界のスマートシティ・ランキング5位(国際経営開発研究所、IMD調べ)の、スマートシティ先進国として知られています。
スマートシティの実現イメージ
スマートシティの実現が進むと、生活環境をより良いものにするさまざまなサービスやシステムが生まれていきます。
以下は日本の内閣が公表しているスマートシティの実現イメージです。図のように、官民連携で最新のデータガバナンスとソリューションを活用し、社会全体の利便性、各運営・業務の高度化を促進していきます。
出典:内閣府ホーム
スマートシティの構成要素
スマートシティの実現には、以下の構成要素が必要です。
▪都市OS
OSという単語はPCやスマートフォンをお使いの方なら馴染みがあるかもしれません。OSとは「オペレーティングシステム」-すなわち「基本ソフト」のことをいいます。ここでいう都市OSとは、都市における生活やインフラ全体を持続的に管理・運営するための基盤となるシステムを指します。
都市OSは、都市の各種データを統合し、サービス同士の連携や都市間の連携を支え、リアルタイムでの意思決定をサポートします。この基幹システムが正確に機能することで、事業者や行政が提供する各種サービスが連携され、住民の生活を根本から支えます。
都市OSが正確に機能するには、「拡張機能」、「相互運用」、「データ流用」が都市別に円滑に作動する必要があるほか、データの真正性と安全性の確保が適切に共有されている必要があります。
▪IoTデバイス
IoTとはインターネットを介して接続され、相互に通信するデバイスを指します。都市のあらゆる場所に設置されたセンサーやデバイスがデータを収集し、都市OSに提供します。これにより、都市全体の状況をリアルタイムで把握し、迅速な対応が可能となります。ただし、IoTはセキュリティの脅威にさらされる危険が高いため、今後も引き続きプライバシー保護やサイバーセキュリティ確保がさらに高められると予想されます。
▪ビッグデータ解析
クラウドサービスやAIで収集された大量のデータを解析し、都市の運営を最適化します。例えば、交通データを解析して渋滞を減らすための施策を講じたり、エネルギー消費を最適化するための戦略を立てたりすることができます。データのフィードバックをこまめに行い、各機器の制御データが向上していけば、将来的には都市の状況や動きに応じて最適に動く自律型システムへと成長する可能性があります。
▪AI技術
データ解析を行い、予測や最適化のための意思決定を支援します。例えば、AIの機械学習を使った予測モデルにより、交通渋滞の発生を予測し、事前に対応することが可能です。
▪5Gテクノロジー
現行のスマートシティ構想は4Gがベースとなっていますが、今後5Gテクノロジーが適用されることにより、構想がさらに具体化するという見方もあります。高速かつ低遅延の通信技術により、高画質画像やビッグデータを迅速に受送信できる仕組みが整い、データ処理能力が大幅に高まります。やがては遠隔医療などをはじめとする複雑な意思決定が必要な場面で、十分な貢献をする可能性があります。
スマートシティ実現のメリット
スマートシティの実現には多くのメリットがあります:
▪効率性の向上
データを活用することで、都市運営の効率が向上します。例えば、ICTやIoTの活用による交通渋滞の解消やエネルギー消費の最適化が挙げられます。シンガポールでは、スマート交通システムにより、交通の流れを最適化し、渋滞を減らしています。
▪生活の質の向上
市民が快適に暮らせる環境を提供します。例えば、スマートホームやスマートヘルスケアが生活の質を向上させます。シンガポールでは、スマートヘルスケアシステムを導入し、遠隔医療や健康管理が可能となっています。
▪持続可能性の向上
環境保護と資源の効率的な利用を促進し、持続可能な都市を実現します。シンガポールは、環境保護のための取り組みを強化し、持続可能な都市開発を推進しています。
▪新たなビジネスの創出
スマートシティの開発が進み、官民の連携が活発化するにつれ、新たなビジネスチャンスの到来が期待されています。それに伴って新たな雇用も生まれる可能性があります。
▪防災と減災
特に災害が予想される近隣地域にIoTデバイスを設置することで、河川の氾濫や土砂崩れ、地滑りなどの危険性を予測し、的確かつ迅速な避難措置を講じることができます。他にも、ICTやクラウド技術を用いた、被災状況の把握と住民への情報共有など、先端技術を幅広く役立てることができます。
スマートシティ実現に向けた課題
スマートシティの実現には、各種データの保護やトラブル防止のためにも、以下のような課題が存在します。
▪プライバシーとセキュリティ
スマートシティでは大量のオープンデータが取り扱われますが、それと同時に膨大な量の個人データも収集されるため、プライバシー保護とセキュリティ対策が非常に重要です。シンガポールは、データ保護法の強化や、サイバーセキュリティ製品の開発に着手し、市民のプライバシーを守る取り組みを行っています。
▪技術の標準化
異なる技術やシステムが連携するためには、標準化が必要です。シンガポールでは、スマートシティ関連の技術標準化を進め、効率的なシステム連携を図っています。
▪基幹システムのフレキシビリティ
スマートシティ開発では、都市OSを中心とする基幹システムの拡張性と互換性が重要です。必要な機能を拡張・更新できる拡張機能を充実させることはスマートシティ開発では必須といえます。ほかにも、効果的なAPI(Application Programming Interface)やミドルウェアを使って都市OSとアプリケーションの親和性を高めるほか、市民からのフィードバックを受けてUI(User Interface)を適宜アップデートすることも大切になってきます。
▪資金調達
スマートシティの実現には多額の投資が必要であり、資金調達が課題となります。シンガポール政府は、スマートシティ関連プロジェクトに対する資金支援を行い、民間企業との連携を強化しています。
▪コミュニティ全体での共創
スマートシティの実現のためには、市民全体でアイデアやソリューション、具体的なメリットを共有することが不可欠です。また、都市OS上に構築するシステムにおいて使用されるデータの「信頼性」を市民に周知しておき、賛同を得ることも重要になってきます。
▪パンデミック対策の徹底
3年以上にわたって続いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、防疫を前提とする社会が構築されようとしています。今後スマートシティ開発におけるデジタル技術やソリューションが、パンデミック発生時にどう転用できるかが大きな課題になっています。シンガポールでは、モバイルアプリ「TraceTogether」で接触追跡のための情報を記録したり、自動体温スクリーニングシステムの「VigilantGantry」を導入するなどして、いち早くパンデミック対策としてのデジタル発展に貢献しました。
シンガポールはアジア都市1位・世界で5位
シンガポールは、2024年アジアのスマートシティランキングで1位、世界ランキングでは5位に位置しています(国際経営開発研究所、IMD調べ)。シンガポール政府は、スマートネーション構想を掲げ、都市全体のデジタル化を推進しています。例えば、スマート交通システムやスマートヘルスケアの導入が進められており、市民の生活を大きく改善しています。また、国際的な企業やスタートアップがシンガポールに拠点を置き、革新的なプロジェクトを推進しています。
シンガポールのスマートシティ構想には、現在実施されているものも含め、以下のようなものがあります。
🔶交通
交通管理 リアルタイムでの交通データの収集と解析により、渋滞の軽減や公共交通機関の効率化を図り、交通流をリアルタイムで管理しています。 自律走行車 官民双方によって自律走行車の試運転が各地域で行われており、人手不足、事故の減少、道路交通状況の改善といった諸問題に取り組んでいます。 スマートパーキング 車の運転手は、モバイルアプリ「Parking.sg」で近くの駐車場を簡単に見つけられ、駐車料金の支払いや返金、駐車の通知を受け取ることができます。また、駐車場内でもカメラや大型スクリーンで利用状況が管理されているほか、駐車場管理者が送信された内部データをクラウド上で把握できる仕組みになっています。 |
🔶都市生活
エネルギー管理 スマートグリッド技術を用いて、電力の需要と供給を効率的に管理し、エネルギーの無駄を削減しています。また、再生可能エネルギーの利用を増やし、エネルギー消費の最適化も図っています。他にも、建造物全体を冷やす新たな冷房システムを導入し、冷房にかかるトータルコストを約30%削減する取り組みも行っています。 公共サービス シンガポールの市民は、スマートフォンアプリでゴミ収集のスケジュールを確認したり、公共サービスに関する問題を報告したりすることができます。 環境保護 センサーを使った環境監視システムが導入されており、空気質の改善に努めています。 |
🔶医療
緊急医療サービス 公営賃貸住宅に住む60歳以上の高齢者すべてに対してアラートシステムが適用されるようになり、このアラートを通じて緊急医療支援がスムーズに行われます。また、遠隔デバイスで高齢者の健康モニタリングが可能になっています。 ドローン技術 シンガポールは、地域によってデング熱流行の脅威にさらされますが、現在ではドローン技術をもって発生地域を調査したり、駆除剤を散布して蚊の繁殖を抑えたりしています。 |
🔶金融
非接触型決済 シンガポールでは非接触型決済の推進と促進のため、電子決済ソリューションの開発が活発です。最近では、陸上交通局(the Land Transport Authority (LTA))がマスターカードと共同で「SimplyGo」という非接触型決済プログラムを開発し、公共交通機関の運賃を非接触型デビットカードまたはクレジットカードで簡潔に払えるようにしました。 |
🔶教育
学校手続きの簡略化 モバイルアプリ「Parents Gateway」により、保護者が学校と効率的かつ組織的にコミュニケーションをとることが可能に。保護者からの承認をアプリで一元管理し、面倒な手続きを簡略化させることで、学校側は生徒の教育と育成に集中できるようになります。 |
上記の通り、シンガポールのスマートシティ構想は、交通、都市生活、医療、金融、教育という5つの主要な分野での変革を目指しており、データを活用した取り組みによってシンガポール人の生活を大きく変えつつあります。下図はスマートシティ構想における各分野の変革イメージです。
出典:Singapore Smart Nation Initiatives And Possible Opportunities
世界をリードするスマートシティ構想
スマートシティは、デジタル技術を活用して都市運営を最適化し、市民の生活の質を向上させる取り組みです。シンガポールはその先進例として、世界から注目されています。スマートシティの実現には多くのメリットがある一方で、解決すべき課題も存在します。シンガポールの取り組みを参考に、他の都市もスマートシティ化を進めることが期待されます。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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