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-第137回-[映画×シンガポール]映画からシンガポール社会を学ぶ

【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】
-第137回-[映画×シンガポール]映画からシンガポール社会を学ぶ

元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸

シンガポール社会を知るには様々な方法があるが、映画は一つの良い手段だ。色々と話題があるが、今回は、比較的最近の映画からいくつか紹介したい。

まず、直近では、今年2月22日に公開となり、ホーカーが舞台の「King of Hawkers」だ。シンガポール出身のヒロインは香港で豪奢な生活をしていたが、香港人夫の不倫をきっかけに故郷シンガポールに戻り、母が営んでいたホーカーを引き継ぐことになる。

本作では、痴ほう症の親からの事業継承、ホーカー店主たちの絆、そして香港から完全に離れる決断などが描かれている。シンガポール人の日常生活に不可欠なホーカーを舞台としながら、現代シンガポールの課題を学ぶことができる興味深い作品だ。

次に、2023年1月公開の「The King of Musang King」だ。Musangはマレー語でジャコウネコの意味であるが、Musang King(猫山王)はドリアンの高級かつ定番銘柄の一つだ。

本作品は、有名なシンガポール人監督ジャック・ネオが撮ったが、物語の大半のシーンを占めるドリアンプランテーションはマレーシアで撮影され、ヒロインを演じたYeo Yann Yannはマレーシア人だ。全てのシンガポール人がドリアン好きではないが、琴線に触れる話題の一つである。

ヒロインがマレーシアで父から引き継いだドリアンを家族一丸となって苦労して育て、シンガポールで売る話だが、マーケットとしてのシンガポールの描かれ方や、食品を輸入に依存するシンガポールへの供給元の様子といった観点からも興味深い。

最後に挙げておきたいのが2018年公開の「Ramen Teh」(邦題:家族のレシピ)だ。監督はシンガポール人エリック・クー、そして主題はバクテー(肉骨茶)である。斎藤工や松田聖子がキャスティングされた。

日本人男性とシンガポール人女性の間に生まれた日本人成年が主人公であり、父の死をきっかけにルーツ探しの旅に出るというあらすじだ。父と母の出会いのきっかけがバクテーだったのだ。また、主人公の母が日本人と結婚することを両親に報告するシーンでは、戦争の記憶から強く反対される。日本人としては複雑な気持ちを抱かざるを得ない。

このほかにも、シンガポール社会を知るには良い映画がいくつかある。現地滞在されている皆さんには、映画館で上映されている映画をぜひ鑑賞していただきたい。

筆者が直近に鑑賞したシンガポール映画「King of Hawkers」のチケット


*2024年3月6日脱稿

プロフィール

川端 隆史 かわばたたかし

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー

外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。

1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。

2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。

共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。

栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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