【~連載~川端 隆史のアジア新機軸】-第134回- [ミャンマー×政治]
クーデターから3年、ミクロとマクロを踏まえたバランスの良い視点が求められる
元外交官 × エコノミスト 川端 隆史のアジア新機軸
2月を迎え、ミャンマーでのクーデターも3年が経過した形になった。3年前、軍政当局はクーデター直後に非常事態宣言を発した。
ミャンマーの憲法上、非常事態宣言の有効期限は1年までであり、そこから6か月の延長を最大2回まで、つまり、最大2年までのはずであった。当初シナリオでは、憲法規程に従って、非常事態宣言後、6か月以内となる2022年の夏に総選挙を行う予定であった。
しかし、軍政当局は非常事態宣言を半年おきに延長し続けている状態であり、総選挙の見通しは立っていない。また、仮に、いつか総選挙を行ったとしても、軍政のイニシアティブで行う以上、どこまで公正な選挙となるのかは不明という懸念が各方面から指摘されている。
このタイミングで、日本の各メディアもミャンマー情勢に関する社説を掲載したり、特集を組んだりした。どの記事もそれぞれの視点があり、過去3年の総括とこれからを考える上で、是非、目を通して欲しいと思う。そうしたなか、朝日新聞が有識者インタビューを交えて10回の連載を行い、かなりの読み応えがある特集を掲載している。
総じて言えること、かつ、過去に本コラムで指摘したことを再度記しておきたい。それは、ヤンゴンで外国人として普通に生活ができたとしても、現地の人たちとイコールではないし、地方情勢の影響を考慮しなければいけない、ということだ。
もちろん、外国人のなかでも子の土地でやり抜くという気持ちを持って現地で起業したり、婚姻などで永住に近い形で暮らしたりしている人たちもいる。ただ、多くの外国人は、ミャンマーに数年間の滞在で帰国することになる。また、住居などの待遇も一定程度厚いことが殆どである。その視点は「ミャンマーは」と語る以上、多角的な視点で見なければいけないし、人権状況をかんがみると国際情勢にもアンテナを張って複合的に理解する必要がある。
例えば、地方での暴力はヤンゴンを中心としたビジネスには関係が無い、という発言を聞くこともある。しかし、中長期的にみれば、国際機関等が強い懸念を表明していることもあり、人権問題としてクローズアップされる。その視点から見れば、ミャンマーでのバリューチェーンのうち、地方での暴力の担い手になっている組織との関係の有無などは、企業のレピュテーションリスクに関わる問題である。
いわゆるn=1の見方は、貴重であるものの全体ではない。ミクロとマクロのどちらも大切であり、それを往復しながら立体的に理解していくことが必要だ。
*2024年2月5日脱稿
プロフィール
川端 隆史 かわばたたかし
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ストラテジー/インテリジェンスユニット シニアマネージャー
外交官×エコノミストの経験を活かし、現地・現場主義にこだわった情報発信が特徴。主な研究テーマは東南アジアなど新興国マクロ政治経済、地政学、アジア財閥ビジネスの変容とグローバル化、イスラム経済、医療・ヘルスケア産業、スタートアップエコシステム、テロ対策・危機管理。
1999年に東京外国語大学東南アジア課程を卒業後、外務省で在マレーシア日本国大使館や国際情報統括官組織等に勤務し、東南アジア情勢の分析を中心に外交実務を担当。2010年、SMBC日興証券に転じ、金融経済調査部ASEAN担当シニアエコノミストとして国内外の機関投資家、事業会社への情報提供に従事。
2015年、ユーザベースグループのNewsPicks編集部に参画し、2016年からユーザベースのシンガポール拠点に出向、チーフアジアエコノミスト。2020年から2023年まで米国リスクコンサルティングファームのシンガポール支社Kroll Associates (S) Pte Ltdで地政学リスク評価、非財務・法務のビジネスデューデリジェンスを手がけた。2023年4月より現職、対外情報発信やビジネスインテリジェンスの強化等に従事。
共著書に「東南アジア文化事典」(2019年、丸善出版)、「ポスト・マハティール時代のマレーシア-政治と経済はどうかわったか」(2018年、アジア経済研究所)、「東南アジアのイスラーム」(2012年、東京外国語大学出版会)、「マハティール政権下のマレーシア-イスラーム先進国を目指した22年」(2006年、アジア経済研究所)。
栃木県足利市出身。NewsPicksプロピッカー、LinkedInトップボイス。
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