HOME最新記事タックスヘイブン対策税制 シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務②【連載】第3回 シンガポールの税務戦略

タックスヘイブン対策税制 シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務②【連載】第3回 シンガポールの税務戦略

シンガポール進出の際、気をつけるべき3つの日本の税務。前回の「出国税(国外転出時課税)」に引き続き、今回は「タックスヘイブン対策税制」についてご説明します。

【連載記事】
【連載】第1回 シンガポールの税務戦略 〜押さえておきたいシンガポールの税制〜
【連載】第2回 シンガポールの税務戦略 シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務① 「出国税」

シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務

法人税が17%と軽課税国として知られているシンガポール。それ故に企業や個人がシンガポールに進出すれば税制面において大きなメリットがあるように考えられます。

しかしながら、場合によっては日本側で「出国税(国外転出時課税制度)」、「タックスヘイブン対策税制」、「移転価格税制」などが課税される場合があり、シンガポール進出時にはこれらに該当しないかを十分な検討する必要があります。今回はこの中の「タックスヘイブン対策税制」について詳しくみていきましょう。

タックスヘイブン対策税制の概要

シンガポールなどの軽課税国の法人で行っている事業が、実質的に日本法人(もしくは個人)が行っているのと変わりがないような場合に日本の税金を不当に軽減することを規制する制度です。日本の税制で、日本国内の法人・個人両方が対象となります。

シンガポールは法人税が17%と、「税率20%未満の軽課税国」の要件に該当するため、日系企業のシンガポール進出や、日本居住者が株主となるシンガポール法人の場合、ほとんど全ての法人が何らかの検討が必要となるため、シンガポールで法人設立の際には見過ごせない税制度となります。別名、CFC(Controlled Foreign Company)税制、外国子会社合算税制とも言われます。

タックスヘイブンとしてのシンガポールの魅力

シンガポールで法人を設立するメリットは数多くあります。自由貿易、政治的安定性、IT・金融分野をはじめとするアジアの中心地であること、ビジネスの展開のしやすさなどすべてをあげるとキリがありません。そして大きな魅力の一つはなんといっても軽課税国、いわゆるタックスヘイブンであることです。

法人税率17%に加えて、シンガポールの政府から認定を受けた企業については軽減税率適用の優遇税制があり、さらに、キャピタルゲインは基本的には課税対象外。日本での課税が多ければ多いほど、シンガポール進出を考える企業は多いでしょう。その際に、落とし穴であるタックスヘイブン対策税制適用にあたらないかは専門家の詳しいアドバイスを仰ぐ必要があります。

シンガポール法人のタックスヘイブン対策税制適用要件

①外国関係会社の判定

シンガポールにある法人を「日本居住者・日本国内法人などが合計で50%超を直接的及び間接的に保有または実質的に支配している」場合、「外国関係会社」となり、タックスヘイブン対策税制の適用対象となります。判定ポイントは「50%超であるか」ですので、シンガポールのローカル企業と50%ずつ出資した法人であれば基本的には「外国関係会社」とはなりません。

②特定外国関係会社の判定

①で外国関係会社と判定した場合、次は特定外国関係会社の判定を行います。

<特定外国関係会社とは?>
・ペーパーカンパニー(登記されているだけで事業活動の実態がない会社)
・キャッシュボックス(金融資産などの保有割合および 受動的所得の割合が高い法人)
・ブラックリスト国(情報交換に関する国際的な取組への協力が著しく不十分な国等に所在する法人)
→シンガポールはブラックリスト国には該当しないため、検討不要です。

特定外国関係会社に該当する場合:
租税負担割合が30%未満の場合*、シンガポール法人の所得は日本の株主(法人・個人含む)の所得と看做され、日本の株主の所得に合算して株主が日本で申告納税をする必要があります(「会社単位の合算課税」と呼びます)。
*シンガポールの租税負担割合は17%です。

特定外国関係会社に該当しない場合:
下記③をご参照ください。

③特定外国関係会社以外の外国関係会社/経済活動基準の判定

①で外国関係会社と判定され、②のペーパーカンパニーおよび事実上のキャッシュボックスに該当しない場合は「経済活動基準」の判定を行います。

<経済活動基準とは?>
・事業基準:主たる事業が株式の保有、無形資産の提供、船舶・航空機リース等でないこと
※一定の条件を満たす統括会社及び航空機リース会社は除外
・実体基準:本店所在地国に主たる事業に必要な事務所などを有すること
・管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること
・所在地国基準又は非関連者基準:
(a)所在地国基準(下記b以外の業種)主として本店所在地国で事業を行っていること
または
(b)非関連者基準(卸売りなど8業種)主として関連者以外の者と取引を行っていること

経済活動基準をすべて満たす場合:
この場合のシンガポール法人は、「部分対象外国関係会社」と呼ばれ、会社単位の合算課税はされないものの、受動的所得(利子や配当、キャピタルゲインなど)については日本の株主(法人・個人含む)の所得と看做し、日本の株主の所得に合算して、株主が日本で申告納税をする必要があります(「受動的所得の合算課税」と呼びます)。

経済活動基準を一つでも満たさない場合:
この場合のシンガポール法人は、特定外国関係会社と同様、会社単位の合算課税となります。

シンガポール法人の合算課税の適用要件

そもそもタックスヘイブン対策税制では特定外国関係会社(ペーパーカンパニー、キャッシュボックスなど)に該当しても税率(租税負担割合といいます)が30%以上であれば、(会社単位の)合算課税にはなりません。

また、4つの経済活動基準を満たす、満たさないに関わらず、租税負担割合が20%以上であれば(受動的所得の)合算課税の対象にはなりません。しかしながら、シンガポールの租税負担割合は17%なので、特定外国関係会社30%未満、4つの経済活動基準20%未満いずれの適用要件に当てはまります。

そのため、日本居住者や日本法人が実質的に50%超の株式を保有するシンガポール法人の場合は、タックスヘイブン対策税制を必ず考慮する必要があります。

納税義務者

納税義務者の範囲はこちら

●直接及び間接の保有割合が10%以上である日本居住者・日本法人
●直接及び間接の保有割合が10%以上である同族株主グループに属する日本居住者・日本法人
●実質支配関係がある日本居住者・日本法人等

判定時期と所得合算日

タックスヘイブン対策税制の判定は、特定外国子会社等の事業年度終了の日(決算日)で行いますが、所得の合算は、特定外国子会社等の事業年度終了の日の翌日から2カ月を経過する日を含む課税対象期間の益金の額に算入することとなっています。

例)
内国法人の決算日が2023年3月末日、特定外国子会社等の決算日が2023年3月末日の場合、(2023年5月末日に所得が発生したものとして)2024年3月期の法人税申告にて特定外国子会社等の利益を内国法人の所得に加算します。(シンガポールでは会計年度は法人ごとに選択できます。)

シンガポール進出時に覚えておくべきタックスヘイブン対策税制

シンガポール進出で気をつけるべき3つの日本の税務、前回の「出国税」に続き今回は「タックスヘイブン対策税制」についてご紹介しました。次回は「分かりやすい移転価格税制」についての記事をお届けする予定です。シンガポール進出にあたり、しっかりと税務知識を身につけたい方、是非ご期待ください。

監修:CPAコンシェルジュ様のご紹介

CPA Concierge Pte Ltdは、2014年から日系企業のシンガポール進出、日本人起業家や富裕層のシンガポール移住、法人設立、ビザ申請、会計税務をサポートしています。これまで400件を超えるご相談に対応してきました。

シンガポールの永住権、お子様の学校、個人の銀行口座、人材採用時の注意点、MOM対策、他の士業事務所との連携、他の業者の紹介や調査、といった、士業事務所では通常は受けてくれない(しかしどこに相談してよいか分からない)お悩みも可能な限り何でもお受けしています。

基本的にすべてのクライアントに日本人スタッフ(日本語ネイティブ並みの非日本人含む)を配置しており、シンガポールでのビジネスが初めての企業でも安心して日本語でご相談いただける体制となっています。

<企業情報>

CPA Concierge Pte Ltd
住所:2 Kallang Avenue, #07-25 S339407
最寄駅:EW11 Lavender駅、DT23 Bendemeer駅
営業時間:月~金 8:00~17:00
Webサイト 
詳しい会社情報はこちらもご覧ください

萱場 玄氏

会計事務所CPAコンシェルジュ(CPA CONCIERGE PTE LTD)創業者。

公認会計士(日本)、税理士(日本)、プロフェッショナルカンパニーセクレタリー(シンガポール)、Xero公認アドバイザー、経営心理士。

●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。

シンガポールのビジネス情報や最新記事、セミナー情報をLINE・YouTubeでお届けしています!
ぜひお友だち追加・チャンネル登録をお願い致します。

チェックしたサービス0件を
まとめて請求 まとめて問い合わせ