シンガポールの法人税は17%と低い ~シンガポールの税金や控除などを徹底解説~

シンガポールと日本の税金の違い、所得税と法人税の税率や納税方法などをチェック。シンガポールでの納税をスムーズにするために、どのような控除や軽減税率があるかについて解説します。
シンガポールの税金の種類

シンガポールの税金には法人税、源泉税、個人所得税、財・サービス税、印紙税、不動産税、相続税といったものがあります。日本と共通しているものがある一方で、日本ではきいたことがないようなものもあります。
また、シンガポールでは毎月引かれる源泉徴収がなく、前年の所得額の申告をすれば、納税する税額の通知を受ける仕組みのため、それを納税するという形になります。これは法人税も個人所得税も同じです。
シンガポールの個人所得税

個人所得税・所得税率について
シンガポールにおける個人所得税は日本のいわゆる所得税とほぼ同じ税金です。最初のS$2万までは税率が0%で、S$32万を超えると税率が22%になります。なお、2023年度分を納税する2024年度からはS$100万超の課税所得で税率が24%に上昇します。
また、シンガポールの個人所得税を考慮する上で重要なのが「課税対象であるかどうか」です。シンガポールの国籍のある方や永住権を持っている方は課税対象ですが、海外の方がシンガポールで就労し、シンガポールの滞在期間が183日未満の場合は課税されても非居住者税率になります。非居住者の課税率は一定税率の15%か、居住者に適用される税率の高いほうが適用されます。
この183日間というのは年をまたいでの滞在期間もカウント対象になるので注意しましょう。3年連続で滞在している方は、年数に関係なく居住者税率となります。さらに、日本居住の方でシンガポール現地法人の企業から役員としての報酬を受け取っている方は、シンガポールの国籍がある場合と同様の税率で納税します。
税率は随時更新されますので、最新情報はIRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)をご確認ください。
また、個人所得税の税率は課税所得によって少し変わるので、以下の表をチェックしましょう。
【2017年から2023年まで】
課税所得($) | 所得税率(%) | 総納税額($) |
First 20,000 Next 10,000 | 0 2 | 0 200 |
First 30,000 Next 10,000 | – 3.50 | 200 350 |
First 40,000 Next 40,000 | – 7 | 550 2,800 |
First 80,000 Next 40,000 | – 11.5 | 3,350 4,600 |
First 120,000 Next 40,000 | – 15 | 7,950 6,000 |
First 160,000 Next 40,000 | – 18 | 13,950 7,200 |
First 200,000 Next 40,000 | – 19 | 21,150 7,600 |
First 240,000 Next 40,000 | – 19.5 | 28,750 7,800 |
First $280,000 Next $40,000 | – 20 | 36,550 8,000 |
First 320,000 In excess of 320,000 | – 22 | 44,550 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
【2024年以降】
課税所得($) | 税率(%) | 納税額($) |
20,000以下 | 0 | 0 |
First 20,000 Next 10,000 | 0 2 | 0 200 |
First 30,000 Next 10,000 | – 3.50 | 200 350 |
First 40,000 Next 40,000 | – 7 | 550 2,800 |
First 80,000 Next 40,000 | – 11.5 | 3,350 4,600 |
First 120,000 Next 40,000 | – 15 | 7,950 6,000 |
First 160,000 Next 40,000 | – 18 | 13,950 7,200 |
First 200,000 Next 40,000 | – 19 | 21,150 7,600 |
First 240,000 Next 40,000 | – 19.5 | 28,750 7,800 |
First 280,000 Next 40,000 | – 20 | 36,550 8,000 |
First 320,000 Next 180,000 | – 22 | 44,550 39,600 |
First $500,000 Next $500,000 | – 23 | 84,150 115,000 |
First 1,000,000 In excess of 1,000,000 | – 24 | 199,150 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
個人所得税の申告と納税方法
給与所得から引かれる源泉徴収がないシンガポールでは、すべての個人が確定申告をする必要があります。
年間所得がS$22,000以下の方は申告する必要はなく、IRASから「No-Filing Service(申告不要通知)」を受け取った方は、所得税申告書を提出することが免除されます。
「申告通知」を受け取った方は確定申告をする必要があります。2023年の申告受付期間は3月1日から始まり、4月18日が締切です。昨年の1月1日〜12月31日までの給与所得をまとめて、提出します。そして、4月の終わりに納税書を受け取り、そこに書かれた金額を納税します。
また、雇用者の義務として、1年分の給与所得を集計した書類などを各従業員に通知し、従業員が5人以上いる雇用主は、従業員の代わりに電子申告するなどのさまざまな義務が定められています。
日本との違い

日本とシンガポールでは所得税の計算の仕方が異なっています。日本では収入から経費を引いたものを所得としています。この所得から家族構成などに応じた控除額を引き、税率をかけて所得税の税額を算出します。日本の所得税の税率は5%~45%の7段階に区分されています。
一方、シンガポールの所得税の税率はというと、2024年度に納税すると、2%~24%と極めて低いものになっています。また、計算式としては、定められた所得のラインがあり、そこで最低納税額が決まります。
そして、ラインからはみ出した部分には、所得によって定められた税率をかけます。例えば、居住者で前年の所得が$34,750だった場合、$30,000を満たしたことから最低納税額の$200を支払い、ラインを超えた$4,750の部分に税率3.5%をかけます。これによって、納税額が($200+$166.25=$366.25)となります。
シンガポールの法人税
法人税・法人税率について
個人所得税と同じく、法人税も確定申告にて提出します。そして、シンガポールの現地法人や支店は確定申告という形で毎年、法人税を納税するというシステムです。
また、シンガポールの法人税の課税対象はシンガポールに源泉がある所得と、シンガポール国内で受け取ることができる国外所得に限定されます。
法人税の申告と納税方法

休眠会社を除いたすべての法人は事業年度が終了した日の翌年11月末までを期日に、内国歳入庁(IRAS)に確定申告書を提出します。確定申告書にはForm CとForm C-SとForm C-S Liteの3種類があります。
一般的な確定申告書であるForm Cは監査剤財務諸表、税額計算書に加え、その他の根拠資料を添付し、年間売上高が$500万以下などの条件を満たす中小企業はForm C-Sという簡略化バージョンの提出で済ますことができます。
加えて、年間売上高が$20万以下の小規模企業はそれよりも簡略化され、監査剤財務諸表などの添付書類も不要なForm C-S Liteの提出だけで確定申告ができます。そして、年間売上高が$500万以上の場合は、各事業年度終了から3カ月以内に見込所得の申告を行う必要もあります。
日本との違い
シンガポールの税制は属地主義です。法人には居住法人と非居住法人というものがあります。居住法人はシンガポール国内で管理と経営がされているものになります。居住法人はシンガポールにおける新会社への免税措置・国外源泉所得への免税といったさまざまな控除を受けられる特典があります。
シンガポールで受け取られる国外源泉所得については一定の免税範囲があります。また、国外源泉所得が国外で課税の対象になり、その国の最高法人税率が15%以上の場合は、シンガポールへの配当金や国外支店の所得、国外のサービス所得が免税対象になります。
また、シンガポールでは損金算入の金額に限度額の定めがなく、交際費や接待費などを事業に必要とするものであれば、際限なく入れることができます。ただし、建築物などの減価償却費など、損金算入に認められないものもあります。
そして、個人所得税もですが、シンガポールの法人税は日本と比べても非常に低いものとなっています。日本の法人税の税率が最大23.40%(国税庁)であるのに対し、シンガポールの法人税の税率は17%です。
シンガポールの控除制度
シンガポールでは、55歳未満のすべての個人が$1,000の基礎控除を受けられ、55歳から59歳の方は$6,000の基礎控除、60 歳以上が$8,000の基礎控除を受けられます。
加えて、 身体障害者や精神疾患のある方は、55歳未満が$4,000、55歳から59歳がS$1万、60 歳以上が$12,000の基礎控除を受けられます。
他にも主婦(夫)控除や扶養控除、配偶者控除などもシンガポールにはあります。日本にはないような控除もあるため、以下でそれぞれを解説していきます。
控除名 | 条件 | 控除額 |
配偶者控除 | 配偶者の年間所得が$4,000を 超えない | $2,000控除配偶者に障害があれば$5,500 |
子ども扶養控除 | 子どもが16歳未満大学などの教育機関に通っていて年収$4,000を超えない | 子ども一人につき$4,000控除子供に障害があれば一人あたり$7,500 |
両親扶養控除 | 両親に毎月最低$2,000の補助両親(外国籍なら滞在歴8カ月以上)が55歳以上 | 親一人につき年収$4,000以下の両親と同居している場合に$9,000控除(障害があれば両親一人あたり$14,000) 同居しない場合は親一人につき$5,500控除(障害があれば両親一人あたり$10,000) |
生命保険控除 | CPFの掛け金が年$5,000未満の既婚者で配偶者の分の掛け金も支払っているのであればその分の受取額も対象として良い シンガポールに支店のある生命保険会社の生命保険に加入して保険金を支払っている | 社員としてCPF拠出をしていたら最低$5,000自営業者や自発的にCPF拠出をしていたら、 保険の掛け金か保険受取額の7%のどちらか低い方が控除額 |
参考:IRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)
その他にも外国人メイド雇用税(FDWL)の控除といった豊かな控除があります。詳しくはIRAS(Inland Revenue Authority of Singapore)をご覧ください。
シンガポールの税優遇措置
二国間租税条約

JETRO(日本貿易振興機構)によると2022年9月において、シンガポールは日本を含んだ93カ国・地域と租税条約を結んでいます。それによってシンガポールの居住法人は、租税条約によって同条約を締結している国からのロイヤルティーや利子などの所得に対して、軽減税率や免税の特典を得られます。
Global Trader Programme
国際貿易に携わる企業でシンガポールをオフショア貿易活動の拠点にし、経営・管理・市場開拓・物流管理といった機能を有する会社であれば、Global Trader Programmeの申請資格を持つことができます。
認定されると、特定商品のオフショア貿易による利益に対する法人税に5%または10%の軽減税率が適用されます。
また、個別のインセンティブパッケージについてはエンタープライズ・シンガポール(ESG)と協議をします。軽減税率の対象は拡大傾向にあり、税率軽減の適用期間は現時点で2026年12月31日までとされています。
IP Development Incentive
開発した知的財産権の使用と商業化の促進を目的とした優遇制度です。2023年12月31日までにEDBに申請し、承認を受けた企業は知的財産権の商業利用において税制優遇措置を受けられます。
具体的には、知的財産権の商業利用で受け取るロイヤリティーなどの所得に対して5%または10%の税率軽減措置を受けられます。
5年間の優遇制度の軽減税率10%や軽減税率5%の措置を受けるためにさまざまな条件を満たす必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
Pioneer Certificate Incentive
特定製品の製造奨励と特定サービスの発展を目的とした制度で、シンガポールの経済発展計画に適合したサービスを提供すると認められた企業などがパイオニア・ステータスの認定を受けます。政府の判断で認定されるため、決まった基準はないようです。
そして、パイオニア・ステータスの認定を受けた企業は、法人税の免税措置が適用されます。ベンチャーキャピタルはパイオニア・ステータスの認定対象にならないので注意しましょう。
税率が低く控除も豊富なシンガポール
シンガポールの法人税は17%と低く、個人所得税も日本の税率よりも低い傾向にあり、控除も豊富です。シンガポールは個人所得税なら滞在期間が183日間か否かなど、法人であれば居住法人かどうかなどが免税措置の適用などに大きく関わってきます。シンガポールの税制を学びメリットを活かしましょう。
●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
●税率などは政府サイトを確認し常に最新情報を得ることをお勧めいたします。