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シンガポールの兵役制度とは~徴兵対象者・義務・企業が知るべきポイントを解説~

シンガポールの兵役は、国家の安定と発展、主権を支える根幹制度です。ビジネスマンとして知っておくべき兵役制度についての義務と、職場対応のポイントを押さえて解説します。実際のシンガポール人の兵役体験談も掲載しています。

シンガポールの兵役制度とは

シンガポールは、その地政学的な位置や歴史的な背景から、国家防衛のために徴兵制度が不可欠とされてきました。そして独立直後の1967年3月に、国家の安全保障の強化を目的に、国民兵役制度改正法案(National Service  Amendment Bill)が可決され、兵役制度(National Service:NS)が導入されました。

それ以降、50年以上にわたって国家機関として発展し、現在は全てのシンガポール市民および第二世代の永住者(Permanent Residents:PR)の男子に、18歳になるとNSへの従事が義務付けられています。

徴兵制度は国の防衛のみならず、自然災害や感染症への対策も兼ねており、国家奉仕の役割も果たしています。NSは国家の安全保障の基盤として、今日もシンガポールの平和と繁栄、主権の維持に貢献しています。

NSの詳細についてはこちらをご参照ください。

対象者とその義務

NSの対象者は、シンガポール市民および第二世代のPRで、18歳以上の男子です。16歳と半年で登録が義務付けられ、18歳で入隊し、シンガポールの防衛に貢献するフルタイムの徴兵者(Full-Time National Serviceman:NSF)となります。

兵役の期間は2年間で、終了後も年に最大40日間、予備徴兵者(NSman)として予備役(Operationally Ready National Service:ORNS)再訓練への出席義務があります。この義務は、一般隊員は40歳、士官や特定の専門職の場合は50歳まで継続します。

入隊準備から義務の失効までのサイクルは以下の通りです:

・13歳(入隊前者)
 出国許可証取得(海外に3か月以上滞在する場合)/または保証金の要件確認
・入隊
 2年間のフルタイムNSに従事
・作戦即応日(Operationally Ready Date:ORD)
 7回の軍事再訓練と10年間のORNS参加(NSmanが対象)
・国防省予備役(MINDEF Reserve)
 ORNS訓練サイクルの修了
・法定年齢(Statutory Age)
 NSの義務失効
参考:An overview of NS commitments

配属先

入隊後、新兵は主に下記のいずれかへ配属となります。

・シンガポール軍(Singapore Armed Forces:SAF)
・シンガポール民間防衛軍(Singapore Civil Defence Force:SCDF)
・シンガポール警察(Singapore Police Force:SPF)

配属先によって軍事訓練の内容や期間がそれぞれ異なります。配属先は基本的に希望できず、身体や適性に応じて決定されますが、多くの新兵はSAFに割り当てられます。

基本軍事訓練(BMT)

入隊直後は必ず基本軍事訓練(Basic Military Training:BMT)を受けます。BMTは、9〜19週間の合宿型トレーニングで、体力の強化や兵士としての基本技能、組織生活への慣れが主目的です。

訓練内容は身体検査の結果や配属先により異なりますが、武器の扱い、隊列訓練、障害物コース、戦闘訓練、団体生活適応などが挙げられます。また、安全管理や健康、リーダーシップ教育にも重点が置かれます。なお、必要な訓練の種類と期間は、入隊時の身体就労基準と身体能力検査によって異なります。

延期できるケース

NSを延長したい場合は、正当な理由を添えて、その旨をNS登録・徴集・管理を担うCentral Manpower Base(CMPB)に申請する必要があります。

対象となるのは、入隊前で大学進学前の正規課程を履修中、または進学のために特定の課題やコースを履修する場合に入隊への猶予期間が認められます。海外留学の場合でも、年齢や学習コースによって猶予が認められる場合があります。

2年の兵役後の義務 ORNSとは?

2年間のフルタイム兵役を終えると、ORNS─いわゆるリザーブ(予備役)に移行します。これは、実戦対応力の維持と国全体の安全保障体制の強化を目的とした制度です。NSmanはSMSなどで召集通知を受けとった後、指定された招集場所に向かうこととなります。

期間は最大10年で、1年間で40日の出席が義務付けられます。最初の4年間は戦備能力の維持を、後の6年間は専門性の強化や実務の積み上げを目標としています。訓練内容は主に野営地訓練と補修研修、その他に通信技術の習得や会議への出席などがあるほか、実際の作戦上の任務や部隊運用活動に動員されることもあります。

いずれも期間中はしっかりと任務を遂行し、様々な活動や訓練に参加しなければなりません。

キャンプトレーニング

NSmanは年度内(4月1日から翌年3月31日まで)に最大40日間、In-Camp Training(ICT)と呼ばれる訓練や動員訓練に召集されます。ICTは1回につき数日から数週間にわたり、高度な実戦想定訓練や部隊再編成が行われます。通知は6か月前までに行うのが原則で、雇用主側も対応の準備が可能です。

個人身体能力テスト

NSmanは毎年、体力評価テスト(Individual Physical Proficiency Test:IPPT)も義務付けられています。最初のIPPT受験期間は、ORD以降の最初の誕生日から1年間です。プログラムは腕立て伏せ・上体起こし・2400m走の3つから成りますが、基準に達しない場合は補習訓練となります。企業と個人双方に管理責任が求められます。

採用者が気をつけるべきこと

徴兵法(第93章、第VI部)の規定により、訓練参加中はその日数分の有給休暇が認められます。兵役義務を履行しなければならない被雇用者に対して、雇用主が差別したり、不利益を被らせたり、解雇したりすることは厳しく禁じられています。

もし召集を理由に対象者を不当に解雇した場合は、雇用主は刑事罰の対象となる可能性があります。社員間の信頼を築くためにも、兵役制度を理解することが大切です。

NS休暇と有給休暇の関係

徴兵法第23条により、従業員が兵役やICTに参加する場合、企業は必ず「National Service Leave(NSL)」を認めなければなりません。NSL期間中は有給扱いが原則で、不当な解雇や差別は禁止されています。欠勤中の給与保証やCPF拠出金などの仕組みも完備されています。NSL取得によって通常の有給休暇(日数)が削減されることはありません。

また、徴兵法第21条により、フルタイムの従業員が会社で少なくとも6か月間働いた場合、雇用主は従業員が訓練を完了したら、必ず復職させるよう規定されています。

NSはシンガポール人の共通言語

NS経験は多くのシンガポール人やPRにとって、共通の思い出・価値観・ネットワークにつながっており、ビジネスの現場でも重要な理解材料になっています。他民族の混在する社会の「共通言語」として、日本からの赴任者も制度理解を深め、コミュニケーションや信頼関係の醸成に役立てることが求められるでしょう。

スタッフが聞いた兵役の体験談

SingaLife Bizでは、シンガポール人と結婚された方に兵役の体験談をご回答いただきました。

どんな訓練をするの?

夫は元シンガポール海軍で、昨年2週間ほど兵役訓練に参加しました。訓練内容はそれほど厳しくなく、過去のスキルの確認や復習が中心だったようです。本人も特に不満はなく、淡々とこなしていました。国家を維持するための「当たり前の義務」として自然に受け止めていたようです。

兵役による仕事や生活への影響は?

夫は「普段の仕事より早く帰れるのがありがたかった」と話しており、家族にとっても嬉しい2週間でした。大きな変化はなく、兵役が日常の一部として自然に受け入れられている様子が伝わりました。

兵役訓練を通じて学んだこと

兵役で身につけた銃の扱いや船の通信の知識(モールス信号の基礎や光信号の使い方)、体力訓練は今でも覚えており、実践できるものもあるそうです。また、訓練を通して心身の強さが養われ、冷静な判断力や責任感など日常生活にも活かされています。さらに、有事にどう行動すべきかという心構えも自然と培われました。

単なる訓練を超え、市民として国家と向き合う意識が育まれたのだと感じます。

徴兵制度を巡る賛否について

シンガポールの兵役制度には、責任感や協調性を養うという大きな意義がある一方、自由やキャリアへの影響を懸念する声もあります。賛否については議論の余地がありますが、制度がある以上、それにどう向き合うかが大切だと感じます。

だからこそ、兵役を少しでも意味ある経験にするために、社会全体で支える仕組みが求められています。

シンガポール在住日本人へのメッセージ

シンガポールの兵役では、責任感や協調性を身につける姿勢が自然に育まれています。地道に役割を果たすことの大切さは、効率や成果を重視しがちな日本でも参考になります。

文化や制度は違っても、周囲と協力し信頼関係を築く姿勢は国を越えて共通するものです。仕事の中でも、相手の背景や価値観を少しでも理解しようとすることで、信頼関係がぐっと深まるのではないでしょうか。

ビジネス現場で求められる兵役理解と今後への展望

シンガポールの兵役と徴兵義務はシンガポールで仕事をする上で、法的・倫理的な必須知識です。皆さんが雇用主や役員の立場でも、一従業員として働く場合でも、採用・就業管理・リーダー育成・チームビルディングの全ての場面に関わってきます。NS制度を正しく理解し活用することが、グローバルビジネスの現場で信頼を得て永続的な成長を遂げる鍵になります。

※記事内容は執筆時点の情報に基づきます。


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