【~連載~シンガポール法人設立ガイド】第一回 6つの進出形態とメリット・ディメリット

シンガポールでは政府が積極的に外国企業を招致していることもあり、世界の大手多国籍企業や急成長中の新興企業がアジアのビジネス拠点として法人設立を行っています。「連載:シンガポールで法人を設立」の第一回目はシンガポールで法人を設立する進出形態、そのメリットとディメリットを解説します。
シンガポール法人設立形態は6つ

シンガポールで法人を設立することができる形態は6種類あります。
●現地法人 ●シンガポール支店 ●駐在員事務所 ●パートナーシップ ●個人事業主 ●ビジネストラスト |
それぞれにメリット、ディメリットがありどのような形態がよいかはどのような目的で設立するかにより変わってきます。それぞれの法人設立形態の特徴やメリット、ディメリットをみていきましょう。
現地法人の概要

シンガポールに新たに独立した企業を設立する企業形態で営業や販売活動が認められています。シンガポールに居住する取締役などの代表権者を1名置く必要があるのも特徴です。会社法に基づくとおおまかに以下の通りに分けられます。
日本企業進出に多い「私的会社」: |
現地法人の中でも、株主が50人以下、また日本の親会社が株主となる場合には「私的会社」となり、シンガポールに進出する日本企業の多くがこの形態をとっています。あくまでも日本の親会社とは独立した法人です。
日本人オーナーの個人出資に多い「私的免除会社」: |
私的会社のうち、株主が20人以下の個人株主である会社や政府系企業は「私的免除会社」となり、日本人オーナーによる個人出資はこちらの形態で営業している会社が多くなります。貸借対照表および損益計算書などの登記が不要であることなどが「私的会社」との相違点です。
そのほか、株式の譲渡制限のない「公開会社」、株主が無限の責任を負う法人形態の「無限責任株式会社」がありますが、日系企業進出にあたっては一般的ではありません。通常は「私的会社」もしくは「私的免除会社」に分類されることになります。
現地法人のメリット
シンガポール政府は国際的競争力を高めるため、海外企業の現地法人化に対して優遇政策を行っています。そのうちの一つが17%という低い法人税率。
さらに設立後3年間は税金が免除されるなどの、スタートアップ企業に対する非課税制度も適用される場合があります。(株主の全てが個人で20名以下、かつ10%以上の株式を持つ株主が最低1名いるなどの条件が必要です。)
現地法人のため、日本での納税も不要で税制面でのメリットを存分に享受することができます。また、日本に親会社があり、シンガポールで現地法人を設立した場合の法務、債務リスクは現地法人にあります。日本の親会社は株主リスクのみとなるメリットもあります。
現地法人のディメリット
日本法人とは別法人格になることから資金移動を行う際に、増資、貸付金、配当などの名目が必要になります。
さらに、配当の名目で資金移動を行う際には、利益部分のみが配当可能となるため、現地法人に損失が出ている場合は送金が難しくなるなど、日本とシンガポール間での赤字、黒字相殺ができないことが挙げられます。
支店(Branch)の概要

外国法人(日本法人)のシンガポール支店という企業形態です。独立した法人とはみなされず、あくまでも外国法人(日本法人)の一部という位置付けです。営業、販売活動は現地法人と同じく行うことができます。
支店のメリット
メリットの一つ目は、あくまでも外国法人の支店の1つという形態のため、現地法人と日本法人の資金移動が容易なことにあります。そのため、日本本社と支店間での損失と利益の相殺も可能で、シンガポールでの法人設立が軌道にのるまでの間、日本本社からの資金提供も可能なメリットがあります。
また、現地法人の時に必要な居住役職者の設定が不要であったり、支店閉鎖時の撤退手続きも簡単というメリットがあります。
支店のディメリット
なんといっても一番のデメリットはシンガポールの低い法人税率の恩恵を受けることができない点でしょう。支店としての所得や欠損はすべて日本法人のものとして日本の税率で計上することとなります。
また、本店が日本にあることで、日本本社の資本関係、取締役情報、決算書の公開なども必要となり、さらに英語翻訳の公証手続きなど手間を要することが多くなります。
駐在員事務所の概要

駐在員事務所も支店のように「日本企業の一部」という位置付けです。支店との違いは、シンガポールでの契約交渉・受注などを含む営業活動ができないことです。
業務範囲は市場調査や企業進出のための情報収集、展示会出典などに限られ、シンガポールでの法人設立前の視察などで利用されることが多い形態といえます。活動期間は最長3年間。
銀行業、投資業、法務業以外の駐在員事務所はすべてシンガポール企業庁(エンタープライズ シンガポール)の管轄となります。
駐在員事務所のメリット
シンガポールでは営業活動ができないことから、当然営業利益はないものとして納税の義務がありません。
駐在員事務所のディメリット
駐在員事務所をシンガポールで開設する際には、日本本社での売り上げが$25万以上、かつ日本本社が会社設立から3年以上経過という厳しい条件があります。
また、駐在員スタッフの人数も5名以下、駐在員事務所としての活動期間は3年期限で、それ以降は支店か現地法人の立ち上げが必要とされています。シンガポールで事業展開することが決まっている企業にとってはおすすめができない進出形態となります。
個人事業主の概要

個人事業主とは、個人、会社、有限責任組合が所有、管理することができる、法人格を持たない会社形態です。
シンガポールで個人事業主を設立する条件は①18歳以上であること②シンガポール永住権保持者です。そのため、日本人が個人事業主を設立する場合は、少なくとも1名の現地在住の公認代理人(シンガポール市民や永住者、EP保持者など)を任命する必要があります。
シンガポールに進出する際の市場調査などでシンガポールの現地の人にその活動を依頼する場合、また、駐在員などの帯同家族(DPビザ保有者)が働く場合、このような形態をとることもあるようです。
個人事業主のメリット
個人事業主のメリットは、事務手続きが簡単なことです。法人立ち上げ時のように代表者権をもつ人を設置したり、財務報告や法人所得税などの煩雑な申告義務からも解放されます。
また、個人事業主として自分の意思決定で業務をコントロールでき、利益分配がないため、すべての利益が自分のものになります。
個人事業主のディメリット
個人事業主のオーナーはすべての債務と損失全てに責任を負う必要があります。法人格ではないため、法人税で受けられる税制上の優遇措置を受けることができないというデメリットもあります。
また、資本金が個人の財政と事業の利益に限定され、社会的認知度も低いと融資なども受けづらく、事業を大きくする場合には不向きの形態となります。
パートナーシップの概要

パートナーシップとは、2人以上、20人以下のパートナーによって所有される会社形態です。パートナーは個人、会社、有限責任パートナーシップのいずれでも可能です。
こちらも個人事業主と同じく、法人格を持たず、設立条件も同じく①18歳以上であること②シンガポール永住権保持者となっています。エンジニア、弁護士、建築家など専門的な職業を営むための職業的パートナーシップについては、20人以上のパートナーを持つことが可能です。実際にこのような職業の人たちが事務所を設立する際に使用される会社形態です。
パートナーシップのパートナーが全員外国人の場合は、シンガポール居住者を代表者に任命することとなっています。
パートナーシップのメリット
こちらのメリットも個人事業主と同様に登録手続きが非常に簡単です。また、法人格の会社よりも法規制が少なく、会計監査の公表などが義務付けられていません。パートナーそれぞれの所得税の申告のみ必要となります。
取締役、株主などもいないことからパートナーシップ内の規則などはパートナーの同意があれば変更することもでき、非常に柔軟な運営ができることもメリットです。
パートナーシップのディメリット
債務についてのディメリットが大きいです。パートナーは、パートナーシップの債務に対して共同責任を負うことが定められています。そのため、一人のパートナーが債務を支払えない場合は他のパートナーが補填する必要があります。
また、事業拡大の際にはパートナーの個人的な資本のみとなるため、個々の資金の量により事業規模が制限されてしまいます。
ビジネストラストの概要

ビジネストラストとは、信託として組織化された事業体のことを言います。受託者といわれる事業経営者が受益者と呼ばれる投資家に変わって資産や財産を保有、管理、指示する契約を結びます。
シンガポールでは、ゴルフ場や不動産ファンドの運営、ホテル業の運営などでよくみられる事業形態です。ビジネストラストは事業信託法(Business Trust Act)に基づきシンガポール通貨金融庁(MAS)に登録することが義務付けられています。
ビジネストラストのメリット
ビジネストラストの最大のメリットは、相続税の軽減です。事業資産の法律上の所有権は受託者(事業経営者)にあるため、投資家自身の個人資産と事業資産が分けられ、財産設計時にビジネストラストを利用することで資産保護が可能です。
また、公的な届出が不要なためプライバシーが守られやすいというメリットもあります。
ビジネストラストのディメリット
信託を維持、管理する継続的なコストの法的規制が難しい点があげられます。各ビジネスごとに規制が異なるため、ビジネストラストを利用することで利益があるかどうかを見極めることが困難です。
特に、信託の利益は高い課税が課されるため、運転資金を捻出する必要がある場合は通常の会社運転のほうが効果的ともいえます。
シンガポールへの進出形態はさまざま

シンガポールでの起業や事業を展開する際の企業形態の解説、いかがでしたでしょうか?どのような形態で事業を行うのか、それぞれのメリット、ディメリットを考えた上で進めていく必要があります。第二回ではいよいよ具体的にシンガポールで法人設立をする方法や費用を解説予定です。次回の特集もぜひご期待ください。
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●記事内容は執筆時点の情報に基づきます。
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