シンガポールのアブセンティーズムを徹底解説~病気休暇(Medical Leave)の現状とは?~

<この記事について>
シンガポールの職場で一般的に利用されている「病気休暇」。Medical Leave、略して ML と呼ばれる本制度(別名 Sick Leave)は、シンガポール雇用法(Employment Act)の下で定められ、条件を満たしたすべての従業員に有給での病欠が認められています。
しかし近年、このML取得をめぐって新たな課題が浮かび上がっているのをご存知でしょうか。
本記事では、病気休暇の乱用から見えてくる「アブセンティーイズム(過度の欠勤)」の問題について現地の経験豊富な日本人キャリアコンサルタントが、シンガポールの転職市場や状況に基づいて、シンガポール就労をサポートするReeracoen Singapore(リーラコーエン シンガポール)が詳しく解説いたします。
病気休暇 Medical Leave の現状
シンガポール雇用法では、勤続3か月を経過した従業員は、年間少なくとも14日の有給病気休暇を取得する権利が認められています。日本では一般的に病欠は無給扱いとなるため、それと比較すると労働者を保護する優れた仕組みといえるでしょう。
病気休暇を取得するには、医師が診察のうえで発行する MC(Medical Certificate)=診断書 が必要です。そこには病状や療養に必要な日数が明記されています。
ところが近年、このMCの発行や診察の妥当性に疑問の声が上がっています。背景には、コロナ禍でオンライン診療が急速に広がり、十分な診察を経ずにMCが出されるケースが増えたのではないか、という懸念があります。
さらに、「有給休暇(AL)を使わずに休みたい」という動機からMLを取得する人も一定数存在するとされ、制度の乱用が問題視されるようになっているのです。
企業が頭を悩ます「アブセンティーイズム」
正当な理由や事前の通知なく、頻繁または習慣的に欠勤することを アブセンティーイズム(Absenteeism)と呼びます。特に行き過ぎた欠勤は Excessive Absenteeism(過度の欠勤) と表現されます。
シンガポールでもこのアブセンティーイズムが深刻化しており、以下のような調査結果が報告されています。
・2022年:正当な理由のない欠勤が全業種の休業日数の6%以上を占めた(MOM調査) ・2024年:リスク調査会社AONシンガポールの報告書では「従業員の健康関連欠勤が年間33億シンガポールドル以上のコストを企業に発生させている」と指摘 ・Googleトレンドでは「Excessive Absenteeism」の検索件数が過去1年間で世界的に160%以上増加 |
こうしたデータから、MC乱用の問題は氷山の一角であり、実際には国全体の生産性・士気・企業収益にまで影響を及ぼす社会課題へと広がっていることが見えてきます。
アブセンティーイズムがもたらす影響
アブセンティーイズムによって、企業と個人の双方に以下のような悪影響が生じます。
【企業への影響】 ・業務の中断:欠勤が頻発するとワークフローや納期に支障が出る ・コスト増:臨時要員の手配や残業代、生産性の低下に伴うコスト負担 ・士気低下:周囲の従業員が不公平感や不満を抱き、チームワークに悪影響 |
【個人への影響】 ・懲戒リスク:警告や人事考課の低下、場合によっては解雇につながる ・キャリアへの影響:欠勤がコミットメント不足と見なされ、評価にマイナスとなる ・成長機会の損失:昇進や昇給、教育・トレーニングの機会を逃す |
一方で、欠勤が必ずしも怠慢によるとは限らず、職場環境やメンタルヘルス、採用・配属のミスマッチといった要因が背景にある場合もあります。
一般的に「過度」と判断される目安としては、
・30日間に3回以上の無断欠勤 ・短期病欠が繰り返し重なる(例:四半期で7〜10日) ・月曜や金曜に休むパターンが頻発する |
などが挙げられます。ただし、個人によって事情はさまざま、実際に医療的・介護などによるケースも多いため、一律に線引きするのではなく、人事やマネジメントの丁寧な判断が求められます。
アブセンティーイズムの防止・削減の取り組み
アブセンティーイズムを防止・軽減するために、企業と個人それぞれができることがあります。
【企業ができること】 ・出勤データを把握し、早期にフィードバック(HRテクノロジーの活用も有効) ・職場復帰面談を通じて欠勤の根本原因を把握 ・柔軟な勤務形態やメンタルヘルス支援の導入 ・出勤率の高い従業員へのインセンティブ付与 ・適切な休暇取得を促し、ワークライフ・バランスを推進 |
【個人ができること】 ・欠勤時には理由を含め、積極的に会社とコミュニケーションをとる ・休暇は計画的に取得し、緊急時を除いて直前申請は避ける ・燃え尽きや個人的事情で勤務意欲が低下している場合は、上司や人事に相談する |
最後に
今回は、シンガポール特有の制度「病気休暇(ML)」と、その乱用から浮かび上がるアブセンティーイズム問題について整理しました。なお、日本では病気休暇は一般的ではありませんが、2022年時点で2割強の企業が導入しているという厚生労働省による調査もあります。
労働者を守る仕組みだからこそ、乱用によって制度の信頼性が損なわれることは避けたいもの。そして何より、アブセンティーイズムが起こる背景にこそ、企業や個人が真剣に向き合うべき課題が潜んでいます。
私たちリーラコーエンは、シンガポールで働く人・採用する人双方のパートナーとして、日々ご相談にお応えしています。在シンガポール企業や転職を目指す方々の信頼できる伴走者として、引き続きサポートを提供してまいります。
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シンガポールでビジネスを展開している企業への人材紹介、シンガポールへの転職を考えている方への支援を行っています。専門スキルを持ったローカル人材、ローカル日本語スピーカー、現地採用の日本人の紹介に強みを持っています。
また、ビザ代行などのビジネス支援やエグゼクティブサーチ・人事コンサルティングを手掛け、経験豊富なコンサルタントが二人三脚でサポートを行っています。
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