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生成AI・AIエージェント時代のDX~企業のDX推進で押さえておきたいポイント~前編~

ChatGPTが世界の注目を一挙に集めてから早くも2年以上が経ち、生成AI(Generative AI)という言葉が今や時代を象徴するキーワードとなりました。目まぐるしいテクノロジーの進化が日々続く中、推論機能を備えた新しいモデルやオープンソースのモデルなど、基盤モデルのさらなるアップデートが続いています。多くの専門家は、2025年を「AIエージェント元年」と位置づけ、企業のDX戦略においてAI活用がより一層重要になることを予見しています。

今回は、生成AI・AIエージェント時代におけるDX推進として、企業が自社でのAI活用を促進していく上で押さえておくべき重要なポイントについて、業務適用の視点から解説していきます。

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生成AI時代の本質~企業のDX推進に必要な視点とは?~

生成AIが一気に注目を集めた当初は、主に一般ユーザーが気軽に使えるチャット型のサービスがクローズアップされていました。しかし、その後わずか数か月間で、企業での利活用を目的としたクラウドサービスやオープンソースモデル、さらにはプラグイン・API、オープンソースのライブラリなども次々と登場しました。

生成AIの利活用は、さまざまな業種・業態でのPoC(試験実施)の段階を経て、今まさに「どうやって社内に根付かせるか」や「自社独自の強みとどう結びつけるか」というフェーズへと移行しつつあります。

2024年の後半頃から、多くの専門家が「AIエージェント」の重要性について強調しているものの、他方で「ChatGPTを導入・展開したのに社内ではまだあまり使われていないレベル」「AIエージェントと言われても、具体的にどこから手をつければ良いかわからない」というように、生成AIの黎明期である今、まだまだ実際の現場とのギャップは大きくあります。

米政府によるStargate Project、中国企業によるDeepSeekの発表、そしてOpenAIによるGPT-4.5, GPT-5のリリース予定など、生成AI関連のニュースについては、新たな話題に毎日事欠かない状況になっています。

一方で、あまり重要でない情報も含めて広く流布されるようになり、生成AI時代において、本質的に捉えておくべきポイントは何なのか、そして、企業のDX推進で今本当に力を入れておくべきポイントは何なのかという事が非常にわかりにくくなっています。

テクノロジーの進化が早く、新たな情報が矢継ぎ早に発表されている今の状況において、最新の動向をまとめただけの情報にはほとんど価値はありません。生成AIに関する最新情報の賞味期限はあまりにも短く、数週間後には「もうその情報古いよね」となっているためです。

本記事では、最新情報によって移り変わる特定のトピック(枝葉)に依拠した内容ではなく、中長期のスパンで考えて、企業のDX推進で本質的に何に取り組む必要があるのかという”幹”の部分について解説していきます。

なぜChatGPTを社内に配ってもあまり使われないのか?

世界の注目を一挙に集めたChatGPTでしたが、実際の所、企業内ではどのくらい使われているのでしょうか?

「自社もこのAIの流れに乗り遅れまい」と大手企業を中心に2023年から多くの企業が社内の従業員向けにChatGPTの展開を始めました。

ChatGPTの利用教育や実践研修なども積極的に取り入れ、生成AIの導入により従業員の業務効率の大幅な向上を期待していたものの、導入後のアンケートでは導入者たちの当初の期待を大きく下回り、利用率は社内の1割程度というデータが相次いで出ています。

では、なぜこれほど世界で注目を集めたChatGPTがそれほど社内で使われていないのでしょうか?

ChatGPTの性能不足や従業員のITリテラシー不足に帰結される事も多いこの現象ですが、根本的な理由はもっとシンプルで、「ChatGPTが社内の事を何も知らない」からです。

そもそもの前提としてChatGPTは過去のオープンデータを元に学習されているため、プログラミングや多言語翻訳、数学・物理等の一般的な問題はそのまま高い精度で解く事ができます。そして、Web検索機能も搭載されるようになったため、ChatGPTは過去のオープンデータ+Web検索で対応できる問題は基本的に解けるようになりました。

この性質から、実際にどの職種の人がよく利用しているのかというと、ITエンジニア・研究者・Webマーケターという職種の方たちが挙げられます。

プログラムは世界共通言語であり、基盤モデルの学習データにも含まれているため、ITエンジニアにとってはプログラミングのコード生成やバグ修正などで大きな味方になり、もはやChatGPTがなければ仕事にならないと言っていい状況になっています。

研究者にとっても、論文のサーベイや翻訳、執筆支援など、業務で活用できる範囲がかなり広く、Webマーケターの場合は、ペルソナ分析や壁打ち、コピーライティングの作成やWeb記事の執筆サポートなど、多くの場面で利用する機会があります。

一方で、大手企業などの場合、社内でこのような職種の人がどの程度いるかというと、あくまで少数派という位置づけになるでしょう。大部分を占める営業系のフロントオフィスの方や、総務・人事・法務・経理などのバックオフィスの方たちも含め、ほとんどの職種の方はオープンデータではなく、社内情報を中心に業務を進めています。

営業系の方であれば、業務を進める上でCRM等に登録している顧客情報や取引情報は必須な上に、バックオフィスの方の場合は、社内の業務プロセスや規程群、組織情報等も前提情報として必須になります。

一方で、ChatGPTはこういった社内情報については何も知りません。つまり、社内の多くを占める職種の方たちにとっては、社内の事を何も知らないChatGPTにサポートを依頼できる業務はあまりないという事です。

ChatGPTをそのまま社内に導入するという事がどういう状態なのかを擬人化して考えると、とてつもなく優秀な人材を採用したものの、この人材を社内情報と隔絶した環境で仕事をさせているという状態になります。

従業員はチャットでこの人材に何でも質問や依頼ができるものの、この人材は社内の事は何も知りません。つまり、社内情報が必須の業務をしている人たちにとっては、どれだけこの人材が賢くても、あまり依頼できる事はないという事です。

では一方で、この人材が社内情報にアクセスできるようになった場合はどうなるでしょうか?

この人材はとてつもなく賢い上に、あらゆる言語を操り、プログラミングすらできます。その上で、社内の事を誰よりも知っていて、24/365で文句を言わずいつでもチャットを返してくれる存在となります。

こうなると、おそらく誰からも頼られるスーパーマンのような存在になるでしょう。つまり、社内利用の観点では、ChatGPTが社内情報をどれだけ知っているかが鍵になるという事です。

これはChatGPTの性能がどれだけ今後上がっても、また従業員のITリテラシーがどれだけ上がっても解決する問題ではないため、社内での個別の対策を進めていく必要があります。

具体的にはRAGやFine-Tuningという手法を使って、ChatGPTが社内情報にアクセスできる状態を作っていくという話になりますが、Fine-Tuningは再学習のコストや評価、情報統制も難しいため、多くのケースではRAGが中心になるでしょう。

先進企業では、2023年後半から2024年にかけて、RAGを活用した社内情報検索等の開発を進めるケースが多くありましたが、社内情報検索はまず一丁目一番地としての取り組みに向いており、この取り組みによって、AI時代における社内情報管理の重要性や生成AIの特性に関する肌感覚が関係者内に醸成されるようになります。

生成AIに関する具体的な取り組みがまだ進められていないという企業は、抽象的な議論に終始する事なく、まずはChatGPTを社内情報に繋ぐ事で、「情報を探す・人に聞く」という、それ自体は付加価値を生まない行為を極力ゼロにしていくという目標を立てる事が一つの指針として良いのではないでしょうか。

人材の流動性が益々高くなり、リモート勤務などのハイブリッドな働き方が更に拡大していく社会の潮流においても、生成AIによる社内情報検索機能がなく、人に聞かないとわからない事が多いという状態は業務効率を大きく下げる上に、企業競争力を低下させる要因となるでしょう。

「参考(著者執筆)」
ChatGPTを社内に配ってもあまり使われない本当の理由
RAGの実装戦略まとめ

2025年以降のDX推進の主軸となる「特化型AIエージェント」の開発

まずは社内にChatGPTを配って導入を進めたのが2023年、RAG等を活用した社内情報検索等の実装を進めたのが2024年でしたが、2025年はAIエージェント元年になると言われています。

なぜ、AIエージェントが重要になるのかというと、今後企業の競争力を決める大きな要因になるのがこのAIエージェント、特に特化型AIエージェントだからです。


基盤モデルのアップデートが速く、さまざまな生成AI関連サービスが矢継ぎ早にリリースされている状況の中、これらの情報にキャッチアップする事も重要ではあるものの、企業がDX推進で本当に力を入れるべきなのは自社独自の特化型AIエージェントの開発になります。それは以下2つの理由からです。

1.基盤モデルも生成AI関連サービスもいずれはコモディティ化していく

現在はさまざまな情報が日々アップデートされ、もはや全ての最新情報にキャッチアップするのは不可能な状況ですが、基盤モデル自体もいずれコモディティ化していき、生成AI関連サービスも自然淘汰を経て本当に良いものだけが残る形に収斂していきます。

基盤モデルも当初は各社のモデルによって大きな差がありましたが、既にその差は小さくなりつつあり、利用者側としては、各モデルが本質的に良い・悪いという判断はもはやつけられなくなっています。

各社が出す家電製品や自動車、スマホの性能自体に利用者視点では本質的な差が今やなくなってきたように、各社の最新のモデルのいずれかを使っておけば概ね問題はないという状況に早晩なるでしょう。

また、オンプレからクラウド・SaaSの流れに切り替わった時期は大量のプロダクトが市場に投入されましたが、そこから自然淘汰が進み、今となっては各領域で主力プレイヤーがある程度固まりつつあります。

Officeが導入された当初は、最新のツールであるExcelやWord, PowerPointが使いこなせる事が重宝されましたが、今となっては誰もが当たり前に使っているように、生成AI関連サービスも主力プレイヤーが固まってコモディティ化すると、誰もが使う事が当たり前の状態になっていきます。

基盤モデルにしても生成AI関連サービスにしても、結局のところは、市場で出回っているものはお金を出せば誰もが買えてしまうという事です。お金を出せば誰でも買えるものは本質的な差別化要素・競争力にはなり得ません。

もちろん最新情報をキャッチアップして、最新のツールや製品を使うようにしておくべきですが、API提供されている基盤モデルやSaaSツールはお金を出せば誰でも使えるので、市況を見ながら対応しておけば良いでしょう。とにかく基盤モデルやツールの最新情報にキャッチアップして、一歩でも他社より早く導入する事に奔走しても本質的な競争力強化にはなりません。

2.基盤モデルも生成AI関連サービスもあくまで汎用型製品

もう一つ重要な視点として、基盤モデルや生成AI関連サービスは基本的に汎用型だという事です。製品開発側の立場としては、なるべく多くの人たちに使ってもらえるように共通化した機能を中心に開発していきます。

生成AI関連サービスの多くが、議事録作成や要約、メールのドラフト作成や音声文字起こし等を推している事からもわかるように、なるべく利用者を増やそうとするとこのような共通領域の機能提供にどうしてもなります。

業界特化型のツール等も出てきていますが、業界特化とはいえ、業界内で見ると汎用になるので、こちらも競争力に直結するわけではありません。本当に良い製品なら、業界内各社が使うようになり、こちらもコモディティ化していくからです。

このように、あくまで市場に出回っている製品はコモディティ化する上に、基本的に汎用用途のため、これらの最新ツールにキャッチアップして利用していく事は必須ではあるものの、これ自体はDX戦略とは言えません。

差別化・競争力強化の源泉となるのは、あくまでその企業独自のビジネスモデルや業務プロセス、ナレッジ、リソース等になります。つまり、自社の強みを最大限活かす事のできる専用の特化型AIエージェントを構築できれば、その企業独自の強みを大きくレバレッジする事ができ、他社には追従できない強みとなります。

ノンコア業務や汎用領域については、市場製品やSaaS系ツールを上手く使いつつも、コア領域においてどれだけ強い自社専用の特化型AIエージェントを作れるかが今後最も重要なDX戦略の一つ(勝負の分かれ目)になっていくでしょう。

特化型AIエージェントは、基本的に人的リソースのような制約を受けず、いくらでも複製できます。そのため、自社独自の高性能な特化型AIエージェントを開発し洗練させていけば、業界によっては一社独り勝ちのような状態になる可能性を秘めています。

経営資源で重要になるのは、ヒト・モノ・カネとよく言われますが、今後はおそらく、ヒト・モノ・カネ・AIとなり、AIがない企業は大きく競争力を大きく落とす事になるでしょう。

AIエージェント元年と言われる2025年以降は、もはや経営資源の一つと言える、どれだけ強い特化型AIエージェントを各社作れるかという競争になっていくのではないでしょうか。

生成AI・AIエージェント時代に企業が準備しておくべきこと

ここからはもう少し具体的な話として、生成AI・AIエージェント時代に企業が準備しておく必要がある、重要な3つのポイントについて解説していきます。

特化型AIエージェントの開発

まず、最も重要な事は、ここまで述べてきたように自社独自の強みを活かす特化型AIエージェントの開発を進める事です。

ここはいわゆるChatGPT活用研修やMicrosoft Copilot活用のような汎用領域や製品活用とは分けて考える必要があります。汎用的な業務の効率化や改善という視点ではなく、「自社の強みを最も活かすAIエージェントは何か?」という視点で構想を策定し、特化型AIエージェントの開発を進めていく事が重要になります。

ChatGPTやMicrosoft Copilot等は一般的に利用しているという会社と、ChatGPTやMicrosoft Copilot等の活用に加え、自社独自の特化型AIエージェントが複数稼働しているという会社では、企業としての競争力の差は明らかでしょう。

以下、特化型AIエージェントの企画・開発において重要となるポイントをいくつか記載します。

ポイント① 極力ノープロンプトを目指す

生成AIが注目されるようになってから、「プロンプトエンジニアリング」という言葉も次第に注目されるようになりました。生成AIの機能を正しく引き出すためには、短いチャットの指示だけでは不十分で、指示と目的が明確になるよう、適切なプロンプトを組み立てる事が重要だということです。

これは上司が部下に指示を出す際の話と同じで、ざっくりとした曖昧な指示では、部下がどうすればいいのかわからないのと同様に、AIに対してもなるべく詳細かつ具体的に指示する事が重要だという事です。

プロンプトエンジニアリング自体はもちろん重要で、知識として知っておいたほうが良いのは間違いないのですが、AIエージェントを開発する際に重要なのはむしろこの逆で、いかにユーザーがプロンプトを入力せずに済むようにするかです。

「プロンプトエンジニアリングが重要」と声高に唱え、研修・教育等を積極的に実施しても、ほとんどの場合、従業員に広く定着する事はありません。なぜなら、詳細かつ具体的に指示する事自体の重要性には誰も異論はないものの、単純にそれが面倒だからです。大前提として、長々としたチャットを打ちたいという人は誰もいません。

そもそも優秀な人材というのは、端的に言ってしまえば「よしなにやってくれる人」と言い換える事もできます。つまり、あれこれ細かい指示を出さずとも自分から動いてくれて、場合によってはこちらから指示を出す前に自分から動いてくれる人材という事です。

具体的かつ詳細に指示を出さないと動けない人材はハイパフォーマーとは言えず、むしろローパフォーマーの位置づけになります。あれこれ指示を出さなくても能動的に自分から動いてくれる人を誰もが求めています。

つまり、優秀なAIエージェントの構築においては、いかにユーザーのプロンプト入力による指示の負担を減らせるかという事が重要になってきます。場合によっては、プロンプト入力が不要な状態、いわゆるノープロンプトで使えるAIエージェントを構築できればそれに越した事はないという事です。

極力短いチャットだけで済むようにするのも一つですが、選択肢が提示されていて、ボタンを選択するだけで良いというような構成もユーザビリティが高いと言えるでしょう。やはり、チャット欄を提示されると、どのような内容を入力しければならないのかと誰しも迷ってしまいます。

プロンプトエンジニアリングが重要という事を前提に、ユーザーが多くのプロンプトを打たなくてはいけないAIエージェントを構築してもおそらくあまり利用が定着する事はありません。

目指すべきはむしろ逆で、自社の業務プロセスやノウハウ、独自データなどを埋め込んだAIエージェントを構築し、難しいチャットを打たなくてもユーザーが容易に利用でき、その上でユーザーをベストプラクティスのレベルにまで引き上げるような特化型AIエージェントを作る事が重要になります。

インプットの自由度が高いという事は、利用者の使い方によって良くも悪くもなるという事でもあるため、こちらはどちらかというと汎用型のAIが担う領域となります。特化型AIエージェントの重要性はあくまで「特化」であるため、インプットの自由度をむしろ下げ、自社における最適化を進めていく事が重要になります。

ポイント② 自律型にこだわらずAIに任せる範囲を見極める

ここからは構築サイドの話になりますが、AIエージェントの構築の際に、あまり自律型にこだわりすぎないほうが良いという話になります。

というのも、よく言われるAIエージェントのストーリーとして「これまではチャットベースでの応答型のAIでしたが、今後注目されるAIエージェントは自ら考えて行動する自律型です」というものがありますが、コンセプトとしてのわかりやすさも相まって、少しこの「自律」という点が強調されすぎているからです。

完全自律型の問題点は、全てを考えてしまうため安定性が低い上に単純に遅いという事です。OpenAIのOperatorやAnthropicのComputer Useを見た事がある方はわかるかと思いますが、画面の全ての要素を認識して必要な箇所を抽出し、想定できるさまざまな選択肢から次の行動を考えるという事を毎回やるので、遅い上に実行毎に結果も異なってしまいます。

デモとしては面白いのですが、企業の実業務で安心して使えるかというとなかなか難しいでしょう。

特化型AIエージェントの構築に重要な事として、全ての業務にはそもそも型があるという事です。つまり、全てをAIに考えさせる必要はなく、考えるべきポイントはAIに任せ、考える必要のないポイントではAIは使わないという事が重要になります。

例えば、特定の業務領域における情報検索に特化したAIエージェントを構築する場合は、あまねくサイトをスコープにしても取得した情報の真偽の判断がつかないため、結果の取り扱いに困るという点があるでしょう。その上、毎回大幅に結果が変わるため、AIとしての信頼性も低くなります。こういった場合は、信頼できるサイトや、有償かつ優良な情報サイトを一覧にした上で、「この中から検索して」という形で、スコープを絞ってあげるほうが、速度面や信頼性も含め大きく改善されるでしょう。

また、特定のシステムから情報を取得するような場合も、APIのドキュメント一覧だけを渡してもそれなりにAIエージェントは動くとは思いますが、どのAPIを使うべきかを毎回考える上に、入出力の結果のチェックも実施しますが、それでも時々エラーが出てしまいます。

このような場合はそもそもAIに任せるのではなく、専用のプログラムを実装してしまって、その結果をAIに使わせるという形が良いでしょう。この形のほうがそもそも圧倒的に処理が速い上に、エラーハンドリングは既に組み込んであるため、信頼性が向上します。

つまり、特化型AIエージェントの設計において重要な事は、「どこをAIに任せて、どこをAIに任せないか」という点になります。AIで解く必要のない問題をあえてAIで解く必要はありません。

あらゆる業務には型があるので、おそらく、ベストプラクティスを埋め込んだ特化型AIエージェントは、自然とワークフロー形式になる事が多いです。最も有名なAIエージェント構築のオープンソースライブラリの1つであるLangChainも、手放しでAIに任せるという訳ではなく、ワークフロー化やモジュール化を強く意識した設計思想になっています。

処理のステップをほぼワークフロー形式で指示し、各ステップ内でAIを使うというようなケースもあれば、メイン処理はステップ含め検討させるものの、前処理と後処理は固定するというようなケースもあると思います。少なくとも特化型AIエージェントにおいて、完全な自律型で設計する領域はそれほど広くはなりません。

AIエージェントの「自律」という言葉に引っ張られすぎると、AIの処理スコープが必要以上に大きくなりすぎてしまい、リリースに向けた着地や評価が難しいという事態に陥ってしまう可能性があります。

AIエージェントにおいて重要な事は、あくまでユーザーから見たときに、あれこれ指示を出さずに自律的に対応してくれるという事なので、特化型AIエージェントの構築(バックエンド)においては、必要以上に自律にこだわらず、AIの使い所を正しく見極めていく事が、AIエージェントの性能を上げる鍵になります。

ポイント③ Human-in-the-loopを上手くいれる

こちらも過度に自律型にこだわりすぎないための重要なポイントになります。というのも、まだまだAIエージェントの利用が一般的ではない現在のフェーズにおいて、「このAIエージェントに頼めば、自分で考えて必要なタスクを最後までこなしてくれます」と言われても、利用者側としては「本当に全部任せて大丈夫かな。。」と不安になるためです。

いわゆる参照情報の提供のようなレベルまでであれば業務影響はないので良いのですが、金銭のやりとりが発生する場合や顧客との接点での利用、またシステムへの情報登録なども実施する場合は、まだまだ手放しで任せるのは不安という方も多いでしょう。

この状態で、自律型を謳い文句にしたAIエージェントをいくら展開しようとしても、なかなか現場としては受け入れづらいという事になるでしょう。

ここは必要以上に完全自律型にこだわらず、Human-in-the-loop型、つまり人間の適切な介入も設計として入れこんでおくという事が有効になります。

つまり、まだまだ信頼性に課題があり、発展途上の段階のAIを全て信じる事は難しいので、一連の処理の中で、人間による確認の観点も含めて設計しておくという事です。

これは人間でも同じ話で、仮にどれだけ優秀な人材を採用したとしても、初日から任せた仕事に対して「全て終わらせておきました」とだけ言われると不安になるのと同じ事です。

ここで期待される動き、おそらく最も優秀な人材というのは、あれこれ指示を出さずとも動いてくれるものの、報連相はしっかりしてくれる人材という事ではないでしょうか。

つまり、自律型といっても完全自律型ではなく、必要なタイミングでの報連相を適切に設計しておく事によって、ユーザーが安心してAIを利用できるようになります。

私も含め技術者としては、技術的な面白さとインパクトから、なるべく自律型にしたいという想いが誰しもあると思いますが、結局の所、現場の方々が使われなければ意味はありません。技術的に面白いというだけでは付加価値はゼロだからです。

「AIエージェント=自律型」のイメージが強い方も多いと思いますが、このイメージに過度に捉われすぎる事なく、実際の利用者になる方々と会話しながら、AIに任せる範囲と人間の介入を行う範囲の設計も含め、着地点を上手く探っていく事が重要になります。

特化型AIエージェント構築の重要性

今回は、「生成AI・AIエージェント時代のDX」と題して、さまざまな情報が日々錯綜する中で、企業が中長期的に取り組むべきこととして、まず「1.特化型AIエージェントの構築」について解説しました。後編では「API・データ基盤の構築」「統合UIの準備」を中心に、特化型AIエージェントの事例についても解説します。

Autofusion Pte. Ltd.

Autofusion Pte. Ltd.では、DX推進における自動化コンサルティングの包括的なサービスを提供しており、構想・企画策定から実開発の領域まで一気通貫で支援をしております。生成AI・AIエージェントの利活用の促進にご興味のある方は、以下のアドレスよりお問い合わせをお願い致します。

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