2023年シンガポールの予算案 税制改正や助成金制度などを徹底解説
ローレンス・ウォン副首相兼財務相は今年2月14日、「MOVING FORWARD IN A NEW ERA」と題した2023年度(2023年4月~2024年3月)シンガポールにおける予算案を発表しました。約2時間にも及ぶ演説の中、ウォン副首相は、助成金制度を始めとした国の競争力強化のための経済施策を次々と打ち出しました。
不安定な国際経済情勢の状況にも関わらず、シンガポール経済は2022年に3.6%の成長を遂げ、昨年12月には居住者の失業率がパンデミック前のレベルを下回る2.8%に低下しています。
ウォン副首相は演説で、2023年の経済成長率は0.5%〜2.5%と鈍化するものの全体的にはプラス成長を見込んでいるとして、今年は1,042億シンガポールドルの予算が発表されました。
今回は、そんな2023年予算案より、特にシンガポールにおける企業・個人に関連のあるポイントに絞り5つの要点をご紹介いたします。
企業の取り組みへの助成金制度「国家生産性ファンド」の増額
企業における人材育成をはじめとした生産性向上のための取り組みへの助成金制度「国家生産性ファンド(National Productivity Fund)」にさらに40億シンガポールドルを上乗せして投じることを明らかにしました。また、今後は投資の促進やエコシステムの創出なども支援対象として含まれるようになり、助成範囲が拡大される見通しです。
このほか、Small to Medium-sized Enterprise(SME: 中小企業)のビジネスと成長を支援する「SME共同投資ファンド」として1億5,000 万シンガポールドルを確保することが発表されました。
加えて、さらに3億シンガポールドルを政府から企業への直接投資に充てることが分かりました。また、有望企業であると政府が判断した場合に受けることができる海外進出支援金として10億シンガポールドルが確保されました。
一方で、現行の企業が融資を受けやすい環境作りをサポートする「企業融資スキーム(EPS)」および昨年9月に新たに導入された食品・小売業界向けの「エネルギー効率性助成(EEG)」は、来年の3月末まで延長することを発表しました。
ウォン副首相は、企業規模に関わらずこれらの助成金制度を最大限に活用し、それぞれがさらなる成長を遂げてほしいと話しました。実際に、このような施策は企業におけるエコシステムの強化にも繋がり、より良い雇用サイクルに繋がっていくことが予想できます。
「エンタープライズ・イノベーション・スキーム」の導入
今回、新たに「エンタープライズ・イノベーション・スキーム(企業技術革新スキーム)」の導入が発表されました。本制度は、シンガポールでの研究開発や知的財産の登録など、企業のイノベーションを支援することを目的としています。
これにより、企業における政府が認めたイノベーション関連の支出から一件あたり40万シンガポールドルを限度に、最大400%を毎年税額控除することができます。これまでの控除率の上限である250%から大幅に引き上げられました。
また、税額控除の恩恵がそれほど受けられないと予測される規模の企業、あるいは黒字化できていない企業については年間のイノベーション関連支出の2割を助成するとしました。2万シンガポールドルという上限はあるものの、補助金を支給することも明らかにしました。
ウォン副首相は演説で、「経済全体に浸透したイノベーションの育成・維持の重要性」を強調しており、新たに導入された本スキームにより、成長が鈍化しコストが上昇する時期にイノベーションを実施する企業が負うリスクを軽減したいという政府の意図が読み取れます。
「ジョブ・スキル・インテグレーター」の導入
今回、労働市場の仲介として政府に新たに任命される機関「ジョブ・スキル・インテグレーター(職とスキルの融合役)」の精密工学、小売業、卸売業などの分野での試験的導入も発表されました。
その役割は、市場のニーズやスキルギャップを理解した上で、人材の育成を最適に行うためのトレーニングを作成・実行することにあります。新規に設立される場合、または既存の業界団体や商工会議所がその役割を担うこともあります。
中央積立基金(CPF)の変更
賃金の上昇に伴い、国民および永住権(PR)保持者を対象に、中央積立資金(CPF)の拠出額算出のための対象の月給上限が6,000ドルから8,000ドルに引き上げられることになりました。まずは今年の9月に6,300ドルに引き上げ、その後2026年1月にかけて8,000ドルまで段階的に行われることになりました。
ウォン副首相は、CPFの上限引き上げの意図について、「シンガポールの中所得層が老後のためにもっと貯蓄できるようにするため」と述べています。
急速な高齢化に直面しているシンガポールでは、退職後の生活の充実を図ることは極めて重要です。このため、政府は2024年1月1日から55歳以上の従業員のCPF拠出率を引き上げる予定です。これまでの引き上げと同様、引き上げ分は全額シニア社員の特別勘定に充当されます。
この措置により事業経費が増加するため、企業には2024年にCPF移行オフセットが付与される予定です。
法人税の新税導入
今回、シンガポール政府は新たな税制「Domestic Top-up Tax(国内トップアップ税)」を追加導入することを明らかにしました。対象は国内に拠点がある売上高7億5,000万ユーロ以上の大規模多国籍企業(MNE)で、2025年1月1日より適用となります。
導入の背景としては、現在のシンガポールの法人税率17%を実効税率が下回るMNEがあり、この実効税率と経済協力開発機構(OECD)が設定する現行の企業が最低限支払わなければならない「グローバル・ミニマム課税」の15%との差を埋めるために適用されるとのことです。
最後に
今回は先日発表されたシンガポールの2023年度予算案の要点についてお届けしました。このほか、少子化対策の一環としてシンガポール人の子どもの父親を対象に現在2週間の有給育児休暇を最高4週間に延長する方針や、出産一時金の増額なども発表されました。
一方で、これまで4年連続で予算案で発表されてきた外国人のビザの引き締めに関する追加施策や環境へ配慮した炭素税に関する具体施策は発表されませんでした。
ローレンス・ウォン副首相は、「国民がひとつになることで、今後起こりうる予期せぬ世界的危機にも備えながらも新しい時代に自信を持って前進し、より明るい未来とより良いシンガポールを共に形作ることができる」と述べています。
また、アジア全体でも今年は成長を続ける見通しを述べました。特に今後、世界各国で経済活動の再開が進めば、需要の回復が世界経済の押し上げにつながるでしょう。
引き続き、世界における動向の中でのシンガポールの経済状況について注視していきたいと思います。
※本記事はリーラコーエン様よりご寄稿いただいたものです。
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直近では、経営やマーケティング、人事など各分野、業界における専門性の高い情報を求める企業に対し最適な人材を紹介し、直接相談ができる場を設けるエキスパートソリューションサービス「Brainsight(ブレインサイト)」を開始。ほかにも、韓国企業様と韓国語スピーカーの方とのマッチングを行う専門チームが発足し、ますますサービスの幅を広げています。
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